大学生活初めは、あれこれと環境の変化に追われ大変忙しい物でした
服屋でバイトをする事になりました。父ちゃんが死んで一番苦労したのは母ちゃん
そんな母ちゃんをできるだけ助けようと。服屋で働けば服に困らずちょうどよかった
ただ悠々自適に親のお金で遊べる人達が少しだけうらやましかったです。
クリスマスが近付く頃。バイト先にとてもキレイなマフラーが入ってきた。
フランス製でアルパカの毛を使用したサラサラで暖かい紺色のマフラー
「これ菜穂に似合うだろうなぁ」色白でキメが細かい菜穂の肌にはピッタリのマフラーだ
定価21000円也。高い。バイトの給料が5万ぽっちの僕には
バイトの社割効かせても16000円というのは血が出るほど高い。
でもどうしても菜穂に巻いて欲しいという衝動は抑えられなかったので買いました
菜穂の家に行ったが急に恥ずかしくなり。「はい、これ拾ったからあげる」って渡した
菜穂「ん?何これ?」僕「拾ったからしらない、開けて見れば?」菜穂は袋を開け
「うわぁマフラーだ素敵」といい、プレゼントカードを見て僕に「ありがとう」って言った
僕「え、俺に言われてもしらないよ」菜穂「じゃぁこのカードに
[Merry X'mas菜穂]って書いた人にありがとうとお伝え下さい」とニコニコしてた
マフラーを可愛い巻き方で巻いてあげた。高校2年生の時には
マフラーの巻き方が悪いと指摘されてた僕は人にマフラーを巻いてあげれようになってた
すごく似合ってて可愛かった。あんなマフラーが似合う女にロクなヤツはいない
【大学2回生の時】
とは言えども菜穂とは恋愛関係になる事もありませんでした。
まぁ幼なじみだしね、あちらはよくおモテになる方、僕には縁遠い人なのでしょう
彼女ができました。
彼女は誰に似ていたかと聞かれれば、ダンゴ虫に似てました。
ダンゴ虫はライバルと取り合いにならなくていいですね。僕は満足でした。
自転車の後ろにダンゴ虫さんを乗せてると菜穂に遭遇して
また「プイッ」ってされました。一年くらいでフラれました。
新しい彼氏ができたらしいです。今度は柔道部の彼氏らしいです
以前ボクシングの彼氏にボディブローをくらったように
柔道部の彼氏には一本背負いをくらわなかっただけでも
僕は幸せだったと言えるでしょう。
マジ「プイッ」ってする菜穂なんてロクなもんじゃない
【大学3回生の時】
ダンゴ虫さんにフラれ僕はダンゴ虫が転がり落ちたみたいな顔してると菜穂に会った
菜穂「あれれー?最近、あの可愛い彼女さん見ませんね」(←ダンゴ虫が可愛い訳がない)
僕「フラれちゃいました(笑)また彼氏ができたらしいです(笑)(笑)」
菜穂「あららー、ヘコんでるの?」
僕「ヘコんでないですよ。ただ半年くらい部屋に引き込もってやろうかと考えてるくらいです」
菜穂「ヘコんでんじゃん。ご飯作ってあげようか?」僕「いらない」菜穂「あーそうですか」
僕「あの…よかったら明日のお弁当だけ作ってくれれば嬉しいです」
菜穂「うん、わかった。じゃぁ用意するね」
次の日の朝受け取った弁当はそぼろでピカチュウが書いていた
すごく恥ずかしかったけどおいしくて嬉しかった
こうやって女にフラれる度に菜穂の弁当が笑顔にしてくれた
まぁでもそぼろでピカチュウ書く女にはロクな人はいない
【大学3回生の時】
その日は嫌な物を見てしまった。学校から帰ると菜穂の家の前に車が停まっていた
運転席には男、助手席には菜穂が乗っていた。なにやら話しているらしい。
僕と思いっきり目が合った菜穂は「アッ」って顔してたので思いっきり「プイッ」ってやってやった。
異性と一緒の時に幼なじみと会った時の焦りようを菜穂も思い知るがよい
もう一度チラッと見るとまた目が合ったので「プイッ」ってしてやった。
菜穂には2回「プイッ」をされてるのでこれで引き分けだ
はぁ…菜穂も彼氏ができたかぁ。そだな、これも遅すぎたくらいか
車か、大学生になると車で遊ぶんだ。ただ車があるだけそれだけだったけど
車なんて買えない僕は相手がとてもレベルが高く輝いた人に見え少し悔しかった
家に帰り洗面台の鏡に映ってる人に向かって
「ほらお前は身長が181だし!!いいぞ!!顔もカッコいいお前の勝ちだ」と励ましてやると
妹に「なに自分に話しかけてんの?気持ちわるーい」と言われた
あの車の中の人が彼氏じゃなく「ただのサークルの人」って知ったのは何年も後になります
妹に気持ちわるーい扱いされる原因になる菜穂なんてロクなヤツじゃない
【大学3回生の時】
学祭に菜穂を呼びました。見せたい事があったからです。
あちらこちらのサークルを広く薄く転々と回ってた僕には
バンドサークルの友達がいました。そんなバンドサークルの友達が
サプライズ演出をしようと言うのです。学祭のステージで
客席から僕が乱入して歌ってるヴォーカルを引きずりおろして歌う
今考えるとありがちな茶番演出でも当時の僕らはワクワクして仕方なかった
菜穂と見に行って用意してた席に座り、そして出番のタイミングが来た
僕「俺が歌ってくる!」菜穂「え!!!!?????」勢いよく飛び出し
予定通りヴォーカルからマイクを取ったがヴォーカルの演技が下手過ぎて
会場にはバレてた感じもしないでもない。そして歌った。
うーん…半分には受けてような半分はドン引きだったような。
歌が終わればすぐに「これは逃げたほうがいい」と感じた
一目散に菜穂のところに向かい「逃げるぞ!!」って手をつないで走って逃げた
僕「ハァハァハァ…ゴメン…ビックリした?」
菜穂「うん、ビックリした!!でもすごくカッコよかったよ!!」
僕「え?」そんな事言われて頭の中がお花畑になった
その後学祭を回り帰りの電車で「菜穂って彼氏いるの?」って聞いたら
菜穂「いないよ、いない。だから今日はすごく楽しかったありがとう」
ってなんか喜んでもらえたみたいだ、菜穂が喜べばいいか。
学祭くらいで喜んでくれるありがたい女にロクなヤツはいない
【大学3回生の時】
また彼女ができました。いえ、菜穂ではないです。
あちらが貴族のような身分ならこちらは庶民です。庶民は庶民らしく
あちらこちらサークルを放浪していると一つの飲み会で彼女と知り合いました
同い年の彼女でこの子は明るくないけど可愛かった。
ただこの「明るくない」と言う事が負のオーラの固まりで
後に大変な事になって行くとはこの時は想像すらできなかった
菜穂には絶対に見せたくなかった、どうせまた「プイッ」ってされるから
こんな風にいつもどこかで存在を気にしてしまう菜穂なんてロクなもんではない
幼なじみとは不思議な関係で、事あるごとにあれこれ報告しなくても
お互いの近況を把握できていたりする。
何かあれば言わないとイケない義務も必要もないが
相手の近況は確実に知っているそんな関係。
来年から社会人の2人。優秀な菜穂は国家公務員の試験をパスし公務員になる
それを菜穂からじゃなく母ちゃんから聞いた。
僕はもっぱら面接だけは得意だったのと大学名が考慮されない大企業狙いで
まぐれで大企業に採用されてしまった。このニュースに母ちゃんが一番喜んだ
だから菜穂も喜んでくれてたんだろうなぁ。
菜穂に連絡しなかったのは彼女がヤキモチヤキで
菜穂に連絡するのはとても気が引けたからです。
でもこうやってどこか反応が気になってしまう菜穂なんてロクなもんじゃない
就職が決まって大学を卒業すれば家を出ると決めていた。
会社が遠い訳じゃなかったけど早く自立して苦労してる母ちゃんを安心させてやりたかった
だから、実家からたった4駅しか離れてない場所だけどマンションを借りた
彼女と一緒に暮らせばいい、だらしない自分でも彼女がいれば大丈夫だろう
そう、うまい計算をしたつもりの自分だったが少しだけ寂しさがありました
菜穂か…
引っ越しの全ての荷物を運び終え、あとは自転車に乗って新居に行く時の事
そんな時に菜穂に会った。
何も報告しなくていい、そんな関係。ただ全部知っているくらいはわかってる
こんなタイミングで会う菜穂なんてロクなもんじゃない
【大学卒業したての時】
菜穂「…あっ…」僕「…うん…」
菜穂「今から出発するんだね…」僕「あぁ」
…菜穂こんなタイミングに出ちゃダメだよ…
菜穂の顔を見たら色んな事を思い出してじんわり涙が出て来た
大好きだったこの街。小さい頃菜穂とよくままごとした公園
菜穂と隠れんぼした汚い川のその川原。そして事あるごとにそばにいてくれた菜穂
この大好きだった街のほとんどが菜穂との暖かい思い出だった
そして今、目の前にいる大好きだった全てと今日でお別れかと思うと急に寂しくなった。
僕「うん…行って…くるよ」菜穂「どうしたの(笑)そんな元気ない声で」菜穂も泣いていた
僕「元気あるよ」菜穂「うん、家も近いんだし寂しくなったらいつでも戻って来ればいいんだよ」
こんな優しくしてくれるからまたボロボロ泣いた
菜穂「(笑)ほんと泣き虫な所は治らないね」僕「菜穂だって泣いてるじゃん」
僕「じゃぁ行ってきます」菜穂「はい、いってらっしゃい」
自転車で出発した僕を菜穂はいつまでもいつまでも小さくなるまで見送ってくれた
菜穂が小さくなっても僕の中ではとても大きな存在だった
こんな優しいヤツはロクなもんじゃない