Z郎は手をつないだ事で気が大きくなったのか、付き合って欲しいと言い
出しました。
「俺は二股はしない。地味子(←突然呼び捨て)を悲しませない」
「ちゃんと守っていくよ」
「正式に彼女になってくれないか」
Z郎はぐいぐい押してきます。
X美から連絡を受ける直前までの私なら二つ返事で飛びついた話だった
と思います。
でもこの時は何とか不自然でなくかわす事ばかりが頭にありました。
Z郎にすれば、この期に及んで煮えきらない私の態度が不思議だった
でしょう。
Z郎の表情がだんだん曇っていき、何か疑うような目つきになりました。
X美を待っているのがバレたのだろうか、と冷や汗をかきましたが
「まさか、まだP太を忘れていないの?」
「あいつに未練があるの?」
彼は違う事を言いました。私はとりあえず沈黙。Z郎は
「P太はCB子に夢中だし、今更戻って来るとは思えないよ。それにもし戻
って来たとしても、地味子ちゃんはそれでいいの?あいつを許せる?」
「P太を許す積りはないし、よりを戻したいとも思ってないの。でもちょっと
待って、考えさせて」
「どうして」
しぶとく食い下がってきます。もうこれ以上はかわしきれないと困り果て
た時
「地味子、遅くなってごめんね」
ようやく頼みのX美が到着しました。
約30分の遅刻からして、そうとうてこずらされたと思います。P太もCB子
も本当に渋々といった風で、かなり強引に連れて来られたのでしょう。
Z郎の方は物凄い動揺ぶりで、私は話を聞くまでもないと思いました。
X美は有無を言わせずCB子、P太の順でZ郎の横へ座らせ、自分も私
の横に腰掛けると
「CB子、あんたまたやったでしょ?」
いきなり指摘し、次にP太へ、CB子からこういう感じのアプローチを受け
なかったかと聞きました。
CB子の略奪パターンは、ターゲットの得意分野についてまず誉めまくり、
彼女も持ち上げ、好印象を植え付けてから小さな用事を頼み、その度
に
「ありがとう! さすが〇〇くんね」「助かっちゃった~。頼りになる~」
と大げさなくらい感謝して、助けてもらったお礼にの名目で部屋へ呼ん
だりデートに誘ったりし、体の関係へ持ちこむというものでした。
ターゲットの彼女をストレートに悪く言う事は決してせず、いわゆる誉
め殺しで自分を売り込み、ターゲットを落とす。
過去に2回これをやった事がX美他一部に知られていて、今回のP太も
まさしくそのパターン通りだったのです。
別れたX美からずばずばと経緯を当てられて、P太もさすがにおかしい
と思ったらしく、真っ青になってZ郎とCB子を見つめたまま沈黙しまし
た。
X美は手加減無用の勢いでCB子に
「せっかくうまくいってたP太と地味子に何してるのよあんた!」
「どうせ長続きしないくせして。P太も地味子もあんたの遊び道具じゃ
ないのよ!」
激しく抗議。当事者なはずの私はかやの外状態でした。
やがて気が強いX美にさんざん罵倒されたCB子がキレ気味になり
「何怒ってるのよ、あんたP太の元カノでしょ!」
意味不明な反論を始めました。一同ぽかーん、特にP太が。
「何言ってるの?」
「悔しくないの? こんなブス(←私を見て)に付き合い長かったP太とられて。
全然似合ってないじゃないの。P太はブス専になったのかってみんな陰で笑
ってるんだよ?」
「私、X美のために復讐してあげたのに。なんで元カノのくせして地味子の味
方してるのよ。少しは私に感謝してくれてもいいでしょ!」
一同愕然です。
どうもCB子は、P太とX美の別れが私の略奪によるものと思っているようす
でした。
いくら円満に解決したと力説しても、そんなハズがない地味子の略奪だ、と
主張して一歩も譲りません。
「P太は地味子にそそのかされて血迷った、X美にはもう新彼がいるらしい、
だったら私がP太を取り返す」
こういう趣旨のCB子の言い分です。私には理解不能でした。
X美とCB子が睨み合う中、急にZ郎が「ごめん」と言い出しました。
騙し切れないと覚悟したようで、カップルクラッシャーCB子をけしかけた、
実は陰で協力体制をとっていた。予想通りの裏事実を白状したのです。
最初の頃は私たちを応援するつもりだったが、途中から私を好きになり
何とかP太と別れさせたい、P太とX美の別れ話を参考にして、それぞれ
に新彼・新カノができればうまくいくと思った。
Z郎はそう説明しました。
CB子は、X美には勝ち目はないけど私が相手ならイケる、とZ郎の計画
に乗ったとの事です。
いつもの手口でP太に近づき、Z郎からゲットした彼の喜ぶツボ情報を活
用して自分に傾かせ、頃合を見計らってZ郎が私にレポートの相談等を
しているところへさりげなくP太と通りかかるようにして
「Z郎と地味子は怪しい」
ように見せかけ、とどめにZ郎が
「俺は地味子が好きだ、もしP太がCB子を選ぶなら地味子は俺が引き
受ける。彼女も俺に興味もってくれてるみたいだし、X美の時のように円
満解決できる」
「でも地味子はまだP太に少し未練をもっている、きっぱり諦めがつくよう
に冷たい態度をとって突き放してあげて欲しい。地味子は二股を嫌うし、
P太も戻る気がないならそうしたほうが彼女のためだ」
ともちかけたというのです。
その間にも、私にはふたりの様子を探ると言いつつP太を煽ったりいろい
ろやっていたとの事。
この頃、P太はCB子の部屋によく行くようになっていて、関係済みでした。
私が倦怠期かな~とのんきに考えていた時期です。
P太は顔面蒼白、必死で私に謝り始めました。
「ごめん。ついCB子と……地味子は二股を許さないって最初に言ってた
から、バレたら終わりだと思ってて。
何とか内緒でCB子と切れようと思ってたんだけど、ズルズルしちゃってて、
そのうちにZ郎が地味子を引き受けると言い出して、俺もCB子に気持ちが
いっちゃって。X美の時のように、簡単に話がまとまると思っていた。
ほんとにごめん」
CB子の正体を知った、もう彼女とは付き合えない、私とやり直したいと言
い出しましたが、こちらはとてもそんな気持ちになれませんでした。
モノ扱いされたとしか思えなかったし、そもそも選択肢としてやり直しは
有り得ませんでした。
X美も私の味方でした。P太を睨んで
「あんた何ふざけた事言ってるのよ。私の時とはケースが全然違うでしょ?」
「Z郎も。地味子を何だと思ってるのよ、思いあがりもいい加減にしなさい!」
「地味子、こいつらどっちもダメだわ。Z郎くんは論外。P太にもあきれたよ。
CB子が男グセ悪いって話、ちゃんと忠告したよね?S事件やR事件も話した
よね?それでこのザマ?人の話を聞いてなかったの?」
X美の糾弾オンステージが展開し、P太もZ郎も沈黙、CB子はなぜか私を睨
みっぱなしという状況になりました。
私はもうどうでもいいから早くこの場を離れたくて、X美に帰ると言いました。
私たちは途方に暮れたようすの三人を見放し、揃ってファミレスを出ました。
帰り道
「X美、わざわざどうもありがとう。P太もZ郎もどっちもいらない。付き合いき
れないよ」
「ごめんね、P太なんか押し付けちゃって。まさかあんなにおバカだったとは」
「私も忠告してもらってたのに、CB子の好き放題にさせちゃった。隙があり過
ぎだよねー」
「もうあんなのと付き合うのは時間の無駄だから、別のいい人探しなよ。そっち
のほうが絶対幸せになれるよ」
そんな会話をほのぼのと交し、P太は失ったけどX美とは仲良くなれたから結果
オーライかな~と思いました。
修羅場についてはこれでおしまいです。
後日談
その後、部活メンバー内では密かにP太を「お供えクン」と呼び、彼とCB
子をくっつけておけば他の彼女もちが狙われずに済むと見なしていた事
も判って、P太は速攻でCB子と別れたそうです。
そのうえしばらくはよりを戻したいと騒いでいました。
「俺が悪かった。CB子に迫られてついその気になった」
「CB子は、付き合い始めはすごくいい子に見えて、セックスもけっこう良
くて、はまっちゃったんだ」
「Z郎が、自分と地味子がいい感じになっているって言ってきた時は、正
直ラッキーと思った。上手く乗り換えられるって自分に都合のいい事考
えた」
「もう目が覚めた。あんな手にひっかかった俺はバカだった。これからは
地味子を大切にするから以前に戻って欲しい」
聞けば聞くほど情けなくなってくる言い訳の連発でした。私は無理の一
点張りで対抗、X美にも相談したところ
「まだ懲りないか」
と彼女は激怒して、新彼(実はP太にとっては部活OBにあたる人)まで
巻きこんでのダブルパンチで
「地味子に近づくな」
とP太に厳命してくれました。
Z郎は多少マシというか、恥じているらしく私を見かけると自分から離れ
るようにしていました。
大学在学時にはそれっきり彼氏はできませんでしたが、社会人になっ
てからそれなりに恋もして、いまはそこそこです。
これで本当にお終い、ROMに戻ります。ありがとうございました。
引用元: ・◇修羅場◇part28