長くて地味な修羅場です。まとめ済みにつき一気投下。
登場人物
地味子←私
P太←元彼
X美←P太元カノ
Z郎←元彼友人
CB子←P太略奪
学生時代のこと。
昔から地味で気楽な単独行動が好きだった私は、サークルの先輩を通じて
自分と正反対のアクティブ派スポーツマンP太と知り合いました。彼はなかな
かの容姿で、いかにもお似合いな美人の彼女X美とも長い付き合いだと聞き
ました。
私はひとつだけ同じ講義を履修している以外は、学部も所属サークルも別で
接点がほとんどなかった彼と、それまで挨拶もした事がなく、先輩から紹介さ
れるまで異性としての関心はありませんでした。
レポート重視主義の担当教授がばしばし課題を出してくるのに、作文系がか
らきしダメなP太は音をあげ、自分の部の先輩→私のサークルの先輩→私
という経路で「レポート作成のコツを教えて」と言ってきたのです。
P太が言うには抜き打ちレポートもテストも提出が早い、文系サークル所
属→私のレポート作成の腕を見込んだ、との事。
実際は私の腕がいいのではなく、単にP太がダメダメだっただけなのですが。
買いかぶられて困りましたが、P太はレポート提出期限がぎりぎりでかなり深
刻、先輩を通じてのヘルプ要請だった事もあり、顔をたてる意味で承諾しました。
ついでにP太友人のZ郎も便乗してきました。
以後はよく話すようになり、夏休みに入る直前で
「付き合っているヤツがいないなら……」
という流れになりました。意外過ぎて思わず「どっきり企画?」と疑ったほどです。
ただP太には似合いの彼女X美がいるはずなので、即答はできませんでした。
二股や浮気は断固No派の私、それだけはイヤだと言い張ったところ、意外に
もP太は彼女とはもう別れていると言いました。
X美にも新しく好きな人ができたらしいと。
とりあえず返事は保留にして真偽を確かめる事にしました。
とはいえ今まで個人人行動ばかりしてきたせいで、私には運動部へのツテが
なく頼りになる友達もいなかったので、どうやって確認したものか頭を抱えまし
た。
そこで思い立ったのがP太の友人Z郎でした。彼に確認したところ、間違いない
とのお墨付き。何ならX美と直接会わないか、とも言われました。よく聞くと彼女
もP太の件を知っていて、私に会いたがっているとの事でした。
会ってみたらX美は終始嬉しそうで
「新彼に気持ちがいっちゃっててね~。P太とは長かったから別れるタイミング
が掴めなくて困ってたところ。円満解決でよかったー」
「私は気が強すぎて扱いにくいって、P太によく言われてたの。地味子ちゃん
タイプのほうが、あいつとはうまくいくかも」
励ましてくれました。とても円満な雰囲気で、私は気をよくしてしまいP太にOK
しようと決めました。別れ際、X美は
「あいつの部にね、CB子っていう問題児がいるから。彼女には気をつけて」
さりげなく警告してきました。
CB子は部のマネージャーで一見ごく平凡な女の子ですが「カップルクラッ
シャー」の異名を奉られる人物で、いままでにカップルがらみのトラブルを
2度起こしている、略奪趣味があるらしい、等々。
X美はP太の部活関係者ではなかったのですが、彼女も周囲から
「CB子には気をつけろ」
と忠告された事があり、部活内で過去2件のトラブルがあった事も具体的に
知っている、と話してくれました。
「いままでP太に目をつけなかったのが不思議なくらいなのよね。地味子ちゃ
ん、CB子に舐められないようにね。私もP太に釘さしておくから」
「うん……ありがとうX美ちゃん」
話し合いはこれで終わりました。
私はこじれると思っていた話がとんとん拍子に進んだので気が緩み、せっ
かくの忠告をあまりマジメに受けとめていませんでした。
後日判明したのですが、P太とX美の別れ話が円満解決し過ぎたのが揉め
事の一因になったようです。
しばらくはうまくいっていましたが、半年ほど経ったあたりからP太の様子が
変わり始めました。
始めはこれが倦怠期なのかなと単純に考えていましたが、段々そうではな
い雰囲気になって来、私も焦り出しました。二股を疑うようになったのです。
P太は多忙を理由に私と会おうとしない、その割にコンパにはよく出る、連絡
も途絶えがち。典型的な状態で、私が必死になればなるほど歯車の噛み合
わせが悪くなって行くようでした。
たまりかねてZ郎に相談すると、彼は言いづらそうな顔で
「P太のヤツ、最近CB子と親密過ぎる。部でもちょっとしたウワサになってい
るよ」
いつも行動が一緒だというのです。私は学部が違うしP太の部活関係にも詳
しくないので、ふたりがどうなっているのかよく判らず、気持ちが暗くなって行
きました。
X美の警告を思い出した時にはもう手遅れだったのです。Z郎は
「とにかく落ちついて。いまはP太を深追いしないほうがいいよ。CB子もヘタに
問い詰めたりしないで。あいつらの様子は俺が探るからね」
そう申し出てくれて、私は彼に頼みました。
Z郎はまめに報告をいれてくれました。ただ内容は悲観的なものばかりで、P太
はCB子が一人暮ししている学生向けのアパートに入り浸りらしく、同棲開始も時
間の問題ではと思われる状態でした。
我慢できなくなってP太に大事な話があるからどうしても会って欲しい、と強く申し
入れたのですが、彼は電話で済ませる積りらしく
「俺、もうお前とはやっていけないから」
理由は特に言わないでとにかく会わないもうこれで終わりと宣言され、一方的に
電話を切られました。私はCB子とはどうなのかも聞けず、ただ泣くしかできませ
んでした。
その後、P太はCB子との事を隠そうとはしなくなりました。CB子もすっかり彼女
ぶりが板についていて、私と廊下ですれ違った時には
「ねぇP太~」
とか何とか、甘え声で彼に呼びかけたりべったりしたり。もう明らかに見せつけ
状態です。P太も平然としたもの。私に見られてもどうという事は無いといわん
ばかりの態度で、私は「だめだこりゃ」と諦めモード突入でした。
Z郎は一所懸命なぐさめてくれて
「俺の力が足りなかった、ごめんね。こうなるんだったら地味子ちゃんの気が
済むようにさせてあげれば良かった、そうしていればP太を引き止められてい
たかもしれないのにね。余計な事しちゃったね」
済まなそうに謝ってもくれました。私はZ郎に感謝の気持ちでいっぱいでした。
クリスマスイブ近くになると、私はP太とCB子の事を「もういい」と割りきれるよ
うになりました。Z郎も根気よく励ましてくれて、私は彼に気持ちを向けるように
なっていました。
私のほうから付き合って、と言ってもいいかな。
そう考え出したある日、P太元カノのX美から連絡を貰いました。
「P太とCB子が付き合ってるって本当? 地味子ちゃんどうしちゃったの?」
少々遅まきながら、X美も情報をキャッチしたようでした。
彼女としては、私とP太の付き合い始めにCB子の略奪グセについて警告した
はずなのに、どうしてこうなったのか。真相を聞きたかったらしいです。
学食で会い、顛末を語ると、X美は難しい顔で黙りこくりました。
私は事前の情報を活かせなかった事でX美が気を悪くしたのではと思い詫び
たのですが、彼女は首を振って
「そうじゃなくて。私、CB子とZ郎くんが学食で会ってるとこ、何度か見てるん
だよね……」
意外な事を言い出しました。
「ちらっと見かけただけだから、何話してるのかは判らなかったけど、かなり
仲良さそうだったよ。私CB子が彼女持ち狙いを止めて、Z郎くんとまともに
付き合うようになったのかなって思ってた」
「それいつの話?」
「ちょっと前からつい最近にかけて。5回は見てるよ。だからなんでP太なの
ってびっくりしちゃって」
それ以上会話になりませんでした。X美は再び気難しい顔で沈黙し、私の
方は何とも言えないイヤな気持ちに襲われていました。
まさかZ郎とCB子が結託していたのでは。とっさに思いついたのはそれで
した。X美も同じ疑惑を持ったようで、彼らの口を割らせると息巻いたとたん、
すぐに行動に出ていました。
「三人まとめたところで一気にケリをつけなきゃ。私、P太とCB子を呼び出
すから、地味子ちゃんはZ郎を呼んで」
場所は大学近くのファミレス、時間は部活解散後の午後7時に。私たちは
申し合わせて一端別れました。
P太とCB子の事はX美に任せるしかないと思い、私はZ郎を夕食に誘いま
した。彼は部活終了直後で疲れていても
「地味子ちゃんから誘ってくれるのは初めてだね」
嬉しそうでした。
私がP太の事以外でZ郎に会いたいと言い、食事に誘うのは確かに初めて
だったので、彼はだいじょうぶだと思ったのでしょう。私と手をつなぎたがり
ました。
状況が変わりつつあるのを悟られないように、私はあえて抵抗しませんで
したが内心では悲しくなっていました。
気持ちそのものは本物なのかもしれない。でももしP太との別れがZ郎の
差し金だったら、私はこの人とは絶対無理だと思っていました。
ファミレスにつくと、X美はまだ来ていませんでした。P太とCB子を呼び出
すのに難航しているとは察しがつきます。
X美たちが来るまでは勝手に話を進められないと思い、私はできるだけお
となしく話の聞き役に徹しました。