流れを無視してなんとなく思い出した修羅場体験。
二年前、バイトの残業で遅くなった日の事。
残業が思ったよりキツくてバスの中でぐったり。
気付いたら終点のバスターミナルまで寝過ごしてしまった。
慌てて引き返そうとするも遅い時間なもんでもうバスが無かった。
ここで簡単に図解。
□――□―――――□―――□
左からターミナル、彼女の部屋、俺の家、バイト先
路線は違うんだけど、まぁ大体こんな感じ。
俺の家まではタクシーで行くと結構かかる。
それなら彼女の部屋に泊めて貰おうと思い付いて家へ向かった。
向かう途中でその旨を連絡しようと携帯に電話……が、出ない。
アパートに到着してみたら電気は消えてる。
「もう寝てるかな…でもまぁ合鍵も持ってるし、床ででも寝させてもらって明日の朝に詳しい事情説明すればいっか」
そんくらいの軽い気持ちで部屋に入った。
思い返すと自己中だが、もうクタクタで一刻も早く休みたい気持ちで一杯だった。
で、合鍵使って起こさないようそっと部屋の中へ。
靴を脱ごうとして…ここで異変に気付く。
玄関に男物の靴が…
もう残業の疲れとか休みてえーとかいう気持ちが全部吹っ飛んだ。
俺は浮気とか絶対に許せないタイプ。
自分も絶対にしないし、もし彼女がしたら彼女も相手の男もぶん殴ると決めてる人。
なもんで躊躇無しにズカズカと部屋に踏み込んで電気ON。
部屋の隅っこのベッドの上には彼女と、見た事の無い男が一緒に寝ていた。
ここで正気が完全に無くなった。
怒りに任せて男をベッドから引きずり出した。
そして以前からの決め事を実行。
ベッドから落ちて流石に目が覚めた男を思いっきり殴りつけた。
いきなりの事に混乱してるっぽいそこにマウントで圧し掛かって殴る殴る。
ここで彼女も起きた。
男同様混乱してたようだが状況を理解したらしく、
「違うの!違うから!やめて!」
と叫んでいたが俺は全く聞く耳を持たない。
すっこんでろ!と一喝。
その剣幕に脅えたのかベッドから降りて逃げ出す彼女。
俺、ノンストップボコボコ。
が、それはその後すぐ彼女に止められる事になる。
逃げたかと思いきや全然違った。
彼女は台所に包丁を取りに行っていたらしい。
戻って来た彼女は包丁構えて
「やめて、違うから!やめて!」
と叫ぶ。
しかしそんな定番の台詞は無視。
むしろそんなこいつ大事なら俺を刺せや、と。
「違うから!それ弟だから!私の弟だから!」
はいはい定番定番。
そんな訳ねぇ、こいつは有罪だとボコボコを続行。
…しかけた所で以前彼女から聞いていた彼女の家族構成を思い出した。
俺「…お前名前は?」
男「……○○だよ」
名前、合致。
顔、そこはかとなく似ている。
年齢、彼女よりちょっと下くらい。
冷静に彼女と男を見たら二人とも普通に服着てるし怪しい所は無い。
どう見ても以前聞いた彼女の弟です、本当にありがとうございました。
急にだらだらと流れる冷や汗。
俺が事情を飲み込んだ事を理解したらしい彼女は無茶苦茶怒った目で睨んでくる。
包丁で今にも俺を突き刺しそうな感じ。
俺は慌てて弟君から飛び退いた。