久しぶりに実家に帰る。
ドアを開ける。玄関には知らない靴が2、3足並んでいた。
何故だか分からないけど身震いがした。
理由はないけど、ここにいてはいけないと本能が察知している。
「帰ったの?」
母が顔を出す。
「どうしたのその格好…」
なにやら正装だ。
居間の戸をひくと、知らないお婆さんとお爺さん、それに母よりは若そうな男性が背筋を伸ばして正座していた。
それに、母方のおばあちゃんまでいる。
一斉にこちらを見るものだから、少々怖じ気つく。
雰囲気がものものしい。
「初めまして…」
挨拶もそこそこに、突然スーツ姿の男性がこちらに居直す。
「突然ですみません。私はお母様とお付き合いさせて頂いている者でTと申します」
「今日は、お母様と結婚をさせていただきたくてこちらに参りました」
急いで書いているため誤字脱字が多いですね;どうかご容赦ください。
「おかあさん…いつから?」
「二年くらい前かな」
妹達は知っていたらしい。
私は全く知らなかった。私はここ数年間、殆ど家には居なかったから知るわけがないんだけど。
「もう>>1ちゃんにも私にも金銭面でも苦労はさせないって言ってくれたの、再婚だから慎重にいきたくて2年も待たせちゃった」
母が俯く。
「今までよくやってくれたね…」
ポツリと溢した。
母の口から初めて聞いた労いの言葉だった。
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信じられなかった。
母の幸せそうな顔を見て、反対なんて出来ない。
「私が先に死んでも、あなたたちの世話をするってプロポーズしてくれたのよ」
もう私も大人だから母の決断に口出しはしない。
心残りがあるとしたら…
一瞥をくれると、妹達は目をキラキラさせて喜んでいた。
「おじちゃん、お父さんになるの?」
―きっと彼なら、幸せを与えてくれるだろう。
「よろしくお願いします」
頭を下げた。
家族に、父が加わった。
この日までを振り返り、漫画のようだと友達に話したら、「事実は小説よりも奇なりって本当だよね」と唸った。
お正月はA君とカナちゃんと近くの神社で初詣に行った。
年末、最後の授業で
「先生、初詣に行きませんか」
とA君に誘われたとき
「カナちゃんも一緒に行かない?」
と返しておいたのだ。
「せんせー!二人っきりじゃないなんて気が利かないじゃん!」
カナちゃんが拗ねたように口を尖らす。
「あ…!本当だ、ごめんね」
「ふふ、ウソウソ!先生に会えて嬉しいよー」
可笑しそうにカナちゃんが私の腕に絡む。
二人は受験の一年を迎える。
帰り際、カナちゃんはA君と同じ大学の違う学部を受けることにしたとこっそり耳打ちしてくれた。
まださぁくんには言わないでね、との言葉も添えて。
おじさまと会長には年賀状を出しておいた。
会長からは
「お年賀 有り難う 昨年は 楽しかった です。 また 近々 お食事にでも 行きましょう。紹介したい 人が います」
とのメールが届いていた。
その年から、一人暮らしを始めた。
これからは働いたお金は自分のためだけに遣って良い、と何度も念を押されたので学生の内は素直に従うことにした。
それぐらいしてもバチは当たらないよ、と祖母に言われた。
一人暮らしを始めた理由はいくつかあるが、私がいると義父が遠慮しかねないということが大部分を占めていた。
家族なんだから、気兼ねなく暮らしてほしい。
私は元々家を空けることが多い。
居酒屋や24時間体制のバイトの関係で夜中に帰ることも多々あった。
家族の生活リズムを考えると、この選択でいいのだろうと考えた。
私と義父は、ゆっくり打ち解ければ良いだろう。