暫くして、おじさまが面会出来るようになったと聞いた。
すぐさまA君と病院に向かった。
来てくれてありがとう、こんなところを見せるのは恥ずかしいな、とおじさまは笑った。
「大した病気ではないが、私も歳だからあと1ヶ月は入院せざるを得ないだろう」
言葉を探すうちにおじさまは
「家のこと、すみませんが頼みます。お金はAが把握しているので好きに遣って下さい。贅沢していいんですからね。家のものも全て好きにしてくださいね。」
と続けた。
贅沢なんて仕方が解らないからしないだろう。
でも今はおじさまの気遣いを無下には出来ない。
「…お部屋、更にピカピカにして待っていますから楽しみにしていて下さいね」
「それは楽しみだね、早く退院しないと」
少し痩せた気がしたが、顔色が良かったので安堵した。
帰り道。
「>>1さん、たまには僕を頼って下さいね」
今、不安なのはA君の方だろう。
「もう十分頼っているよ」
「僕は弟ですよ、遠慮したら怒りますからね」
優しい弟を持ったな、としみじみ感じた。
15日までに終わらせたかったのに、自分がこんなに打つのが遅いなんて。長引いてごめんなさい。
難なく日々は過ぎていった。
あれから会長とは頻繁にメールで近況をやり取りした。
A君は模試で校内2位を取った、先生のお陰だ、と言うから二人ではしゃいだ。
ただのゲストルームは気がつくと「>>1さんの部屋」という札が掛けられていた。可愛いウサギの飾り付きだった。
「これA君が作ったんだよね、ありがとう!」
「サンタじゃないですか?」
「まだまだサンタのおじさんは準備中だよ」
「じゃトナカイかも」
「素直じゃないやつめ…この家には随分サプライズ好きなトナカイがいるものだね」
「…」
そうこうしている内に、おじさまはあと2週間で退院というところまで快復した。
身近にいたら、絶対惚れてしまいそう。
そんな風に受け止められるなんて恐縮です!
さっ、と書けない自分が悔しいです
A君は食べ盛りなので、これまでご飯が進むような料理を振る舞ってきた。
だけどおじさまが帰ってくるとなったら、食事は第一に気を付けなければならなくなる。
糖尿病の人向けのレシピ本を見付けたのでそれを購入した。併せてネットでも情報収集を欠かさなかった。
大学や高校時代の友達は私の状況を把握している。
無理に遊びに誘わないどころか、病気の方でも安心して食べられるレシピをたくさん教えてくれた。
2週間、練習しよう。
美味しい料理を作ってA君と待っていよう。
糖尿病の患者さん向けのレシピを参考にしていただけで糖尿病ではないです。言葉足らずでしたね、気を付けます。
読んでいただきありがとうございます(*´∀`*)ノ
恐らく味は薄くて物足りなかったであろうご飯もA君は文句ひとつ言わずに平らげてくれた。
もうすぐこの生活が終わる。
変化を挙げるとしたら、A君とは軽口を叩けるような間柄になっていた。
A君の部屋は一階にある。
ドアには私が作ったネームプレート。
もうすぐ、これを毎日見ることはなくなる。
少し寂しくなっている自分がいた。
二人での生活も残り1週間。
講義も終わり、家でレポートとA君への抜き打ちテストを作成している時だった。時刻は16時を過ぎていた。
突然、インターフォンが鳴った。
モニターで確認すると、名門と呼ばれる高校の制服を着た女の子が立っていた。
「A君と約束している者です。A君に家で待ってるように言われたので通してください」
即座にA君に電話したが、繋がらない。
相手は高校生の女の子、外で待たすわけにもいかない、か…?
確認がないので気が引けたが、こんな女の子が何か出来るとは思えない。
仮に何か起こったなら、全力で責任を取ろう。…一応ペットボトルを護身で持っておこう。
葛藤してドアを開けたら、倖田來未さんのようなメイクを施したお洒落な女の子が入ってきた。
心なしかいい香りがする。この香りは知っている。クロエ?とかそういう名前の香水だ。多分。
「お邪魔します」
深々とお辞儀をし、靴を揃えて入る。
偉いなぁ、と思わず感心する。
化粧の厚さはコンプレックスの厚さだと聞いたことがある。
顔立ちは整っている感じなのに勿体ないな、と感じた。なんなら素っぴんでも可愛いだろう。
まじまじと眺めていると、真っ直ぐこちらを見据えて彼女は言った。
「私、A君の元カノです」
「A君はあなたのような可愛らしくて礼儀正しい子と付き合っていたんですね!」
本当の姉のような心境だった。
「A君全くそんな話ししないから心配だったんですよ、座ってお茶でも飲みましょう。あ、お名前お伺いしていませんでしたね。私は>>1と申します」
喋りすぎたようだ、彼女はぽかんとしていた。
「私は…カナです」
「カナちゃん。今日はA君とどんな約束をしていたんですか?」
カナちゃんは出したばかりの紅茶に砂糖を入れながら答えた。
「約束っていうのは嘘です」
「家庭教師さんに会いに来たんです。さぁくんに内緒で。」
「さぁくん?」
A君のことであるだろうが、苗字も名前にも「さ」は付かない。
「周りの女子と被らない呼び方を適当に考えただけです。さぁくんモテるから」
「そういえばA君(いや、さぁくんか)とカナちゃんは違う学校だよね」
「電車で見掛けて好きになったんです」
カナちゃんは恥じらって頬を赤らめる。乙女だな、とにやける。
ご名答です(`・ω・´)
「それで…私に用事とは」
「その前に訊きたいんですが」
カナちゃんが紅茶を混ぜる。ミルクが綺麗に溶けていく。ケアしてある手先が美しくて、吸い込まれるようにただ見つめる。
「さぁくんに惚れてないですよね?」
思いもよらない質問だった。
考えたこともなくて、言葉に詰まった。
一瞬の沈黙の中でカナちゃんの瞳は強気で、不安げだ。
A君は本当に弟のような存在だ。
それに嘘はない。何に誓ってもいい。
「考えたことなくて吃驚した…」
素直にそう答えた。
カナちゃんは本当に?と言いたげな目で、「それなら相談に乗ってくれませんか?」と続けた。
「よりを戻したいんです、さぁくんの好みとか知りません?」
そうきたか、と呆気にとられる。
「好み?女の子の?」
「モノでも女の子でも…簡単に言えばもっとさぁくんの理想に近付きたいんです。あとプレゼント攻撃もしたい」
恋愛のれ、の字もかじれてない私の小さな思考容量がフル活動しだした。
読み易くて面白い
勿体ないお言葉!ありがとうございます(;_;)眠りに就く度、起きてもこのスレが残っているか少し心配でした。
よりを戻す。言葉にするように簡単なことではない。
というか、よく考えたらそんな経験がなくて解らない。
「A君にはもう告白したの?」
「してないです、出来る雰囲気じゃないし」
「隣の高校だからよく色んなところで会えるけど、さぁくん勉強ばっかり」
そう言って、長い髪の毛の毛先をくるん、と遊ばせる。
どこかで、「女性が毛先をいじりだしたら貴方に気がない証拠だ」と読んだ。そうだ、男性用雑誌だ。
確かにこの仕草は拗ねているように見えなくもない。
「さぁくん、どこの大学目指しているんですか?私も頑張ろうかな」
ありがとうございます(*´・ω・`*)
ヌクモリティに感謝しつつ、続けます。
いい兆候じゃないか、と微笑ましくなる。
「国立大って言ってたよ」
「え…猛勉強どころじゃないじゃん…」
カナちゃんの顔色がみるみる暗くなっていく。
「成績悪いの?」
勉強時間や方法まで詳しく尋ねたくなるのは、家庭教師の性だろうか。
「成績は悪くないけど国立はどうだろ…」
「一緒に勉強しない?とか効かないのかな、ベタだけどお菓子とか作って差し入れるとか…あまりしつこくならないように適度に」
「それいいかもー!ナイスー!適度にね、覚えとこ」
A君のこと、本当に好きなんだな。
どうかこの可愛い子の恋が上手くいきますように。
嬉々としてプランを練るカナちゃんを横目にそう願った。
時刻は17時を回っていた。