私はどちらかと言えばキリスト教系の大学だ。そのお陰で、入学時に「あんたあんな大学に行くなんて地獄にいくよ」と周りの信者に散々言われ、目が覚めた。
他人の努力を勝手な偏見で野次るような宗教が誰を救うんだ。
認められたり、報われたりしないと人間はやる気を殺がれる、とは知らなかった。
今思えば、もう限界が近付いていた。
顔色があからさまに悪くなっていたのだろう、A君とおじさまには「栄養が不足していませんか?」と度々気遣われた。
その心配さえ素直に受け入れられず、「ダイエットをしているもので」と嘘を吐いた。
「無理なダイエットは宜しくありませんよ、コラーゲンというものは飲んで肌に作用するものではありません…あ、キツければ授業減らしても構いませんからね?」
おじさまはやはり医者だ、と思った。
「大丈夫ですよ、本当にありがとうございます」
「せめて何か栄養のあるものを食べましょう、今週末空いていますか?Aとお食事致しましょう」
「いつも連れていってもらってばかりなので忍びないです…」
言い終えた瞬間に綺麗なキッチンが目に入った。
「宜しければ、私に作らせていただけないでしょうか」
料理は好きだ、よく色んな人に振る舞ってきた。
最初こそ悲惨だったが、歳を重ねるにつれ、「美味しい」と褒められるようになっていた。
しかし、「本当に美味しいものを沢山食べることで舌を肥えさせると、自分が料理をするときに決して不味いものは出来ない」というおじさまの口癖がネックだった。
果たして、彼らの口に合うのだろうか?
「それはいいですね、じゃあお願いしましょう。食材はこちらが用意致しますから何なりと仰って下さい」
週末ならレポートも終わっているし、バイトも多くない。
何とか彼らが喜んでくれそうなものを作りたいと切望した。
インターネットや本屋さんでレシピをみて回った。
翌朝、
「○○会長のお申し付けによりご連絡差し上げました」と電話が入った。
案の定、例の「就労」だ。
「業務内容は幾つかありますのでご自身が生活に差し支えのない程度に、とのことです」
ひとつ。食品のモニター。食べて感想を送る、というものだった。
ふたつ。送られてきた何らかの文書を英語と中国語に訳して返す。
みっつ。定期的に送られるテーマに沿ってレポートを書く。結構な量になるらしい。
ご覧の通り、本来ならわざわざ仕事にしないようなものばかりだった。
ありがとうございます。
今は22です。私が美人かは分かりませんがネットやチラシ、ヘアカタログモデルをしてたので何処かでお会いしたかもしれませんね。ご参考までに。
「では、二つ目でお願いします」
「翻訳業ですか?」
それが一番仕事っぽいと思えたからだった。
「ではこちらから契約に於いての書類を発送させて頂きますね。給料は恐らく歩合になるかと」
充分だと思った。
「ありがとうございます」
「こんなこと会長が言い出して、びっくりしましたでしょう。頑張ってくださいね」
学科が英語や中国語の専攻なのでそれほど心配はしなかった。
訳なら腐るほどしてきた。
大丈夫だろう。
そして迎えた週末。
あろうことかおじさま達の前で、倒れてしまった。
酷い胃痛で目を覚ますと、ソファーベッドに横たわっていた。
おじさまが冷静に対応してくれた、とA君に聞いた。恐らく貧血だろう、とも。
「心配しましたよ、倒れちゃうから」
「ごめんね、A君お腹空いたでしょ」
「先生が元気なのがいいんです、食卓を囲む時は尚更」
まじまじとA君を見る。
よく見たのは初めてかもしれない。
…野球選手のムネリンとやらに似ているらしいけど、テレビをあまり観ないから分からない。
「ありがとう」
そう言うと、「先生の教えかた好きなんです」とはにかんだ。
>>1です。
スマホの調子が宜しくないのでトリップをつけておきますね。
「安静にしていてください」
おじさまが戻ってきた。
「ダイエット無理しすぎていませんか?」
おじさまは恐らくダイエットじゃないことに気付いていただろう、A君の手前そう気遣ってくれた。
「今夜はどうぞお泊まりになってください。ゲストルームが空いていますから」
「そうだよ先生、今日は無理しないでよ」
「ありがとうございます」
目の前の慈悲溢れる親子と会長。
彼らに会って、沢山お礼を言えるようになったなぁ、と感じた。
嬉しいです(;_;)
こんな拙い文章を面白いと言ってくれるなんて、感激です。
ゲストルームは二階の突き当たりにあった。
10畳ほどの洋室にだだっ広いクローゼットがあった。
ウォーキングクローゼットというらしい。
そんなものはテレビの所謂「セレブ」と持て囃される人のみの所有出来るものだと思っていた。
最も、そういう番組を観ても、セレブ、とは有名人という意味でお金持ちを安直に表すわけではない、なんてことしか考えられないくらい物欲もない。
なんならこの4畳ほどのクローゼットで生活出来そうだ。
元々二世帯住居にする予定だったらしく、二階にもお風呂やトイレ、洗面台、果てはキッチンまでも完備されていた。
時刻は21時をまわっていた。
貧血のあとの湯船は良くない、とのアドバイスでさっとシャワーを浴びることにした。
部屋に戻るとドアの前に、アロマの加湿器が置いてあった。
丸い形状で、水が揺れ動くのを外から眺められる構造だ。
置き手紙があった。
「お好きなフレーバーをどうぞ。お大事に。A」
箱の中にはラベンダー、グレープフルーツ、グリーンティー、ラベンダーの香料である瓶が入っていた。
彼の精一杯の見舞いに、入れすぎだよ、と思わず笑った。
朝は5時に起きて朝食を準備した。
5時半にはおじさまも起きてきて、目一杯私の体調を気にしたあと、ウォーキングに出掛けられた。
和食と洋食はどちらが良いか尋ねそびれたので、どちらも用意した。
IHの三口コンロを使ったのは初めてだったが、こんなに便利なのかと感動した。
散々お世話になっといて、こんなことしか恩返し出来ていない自分に嫌気がさした。