すぐに返事は届いた。時間は21時くらいだっただろうか。
『今 接待が 終わった ところです。 御丁寧に 連絡嬉しかったです
明日は 空いていますか?』
会長さんは独特な空白の使い手だった。
―明日は空いていますか?
「失礼ですが、どのような意味ですか?」
必死に考えても分からなかったからそう送った。
>>29 貧乏性というやつだな 何となくわかる
まして靴磨いたぐらいで大金貰えるなんて、普通何か裏があると思うよな
>>30
ほんとそう
「興味が あるのです 大丈夫ですから 明日の 19時にホテル○○のロビーにおいで 下さい」
怖い、行きたくない。
けどお金も返したい。
悩んだ末、意を決してホテルに向かった。
お金が大金だったからね(;´・ω・`)
ホテルがホテルだったため、洋服は一張羅を選んだ。
出迎えてくれた会長はカラフルなスーツで、ドン小西を彷彿させた。
「中華は好きかな?ここのは殊においしいよ」
部屋に直行するのかと思い込んでいた私は拍子抜けだった。
現実離れした話だなwww
>>1がかわいいから釣られてやるか
本当なんだよう…でも釣りと思ってても読んでくれて嬉しい
食事は最高だった…が、今後のことを考えると不安で胸がいっぱいになった。
会長は色んな話をしてくれた。
大体のホテルは名前を言うだけで部屋が取れること。大学時代のこと。
仕事のこと。プライベートなこと。
そして、娘さんのこと。
スマホの調子悪くてID変わるけど1です
保守ありがとう
「え…!」
携帯の液晶に映る女の人をみて、思わず声をあげてしまった。
「>>1さんに似てるだろう?」
鏡を覗いたかのようにそっくりだった。
娘さんに似ているからここまでしてくれるのかな、とぼんやり考えた。
「今お幾つなんですか?」
「…亡くなったんだよ。生きていたら、えー幾つかな?」
「ご逝去されたんですか?あの、すみませんでした。何も知らずにずかずかと」
なんて地雷を踏んでしまったのだと後悔した。
傷付けてしまっただろう。
「君がそんなこと知っていたら警戒しちゃうよ。生きてなくとも自慢の娘なんだ。別嬪だろう?」
私に似たのかな、と豪快に笑う彼が会長である理由が分かった気がした。
結局ここでも私は身の上話をするはめになった。
同情されることは好まないので、なるべくあっさり事情を話したつもりだったけど、話し終える頃には彼は目に涙を貯めていた。
「…」ぐすん
「すみません、そんな大それたことでもないのに…」
「アヤ(仮名です)、苦労したんだなぁ…」
「アヤ?」
「娘の名前だよ」
「??」
「毎月少額でいいから振り込ませてくれないか」
突然の申し出に硬直した。
「お気持ちは嬉しいですがそうしていただく理由が私には…」
「何を言うんだ、君はアヤに似ている」
「理由になりませんよ」
「娘に似た子が苦労をしているのに放っておけないよ、放っておきたくないよ!」
「でも無償でそれは流石に」
「じゃあ…仕事を与えよう」
名案だと思った。
「よし、これなら就労として手伝えるね」
「どんな仕事ですか?」
「ここに電話番号を書いて。後で秘書から連絡させるよ」
どうやら秘書とは、ずっと一緒というわけでもないらしい。
その後、何事もなかったかのようにタクシー代を渡され解散となった。
「今日は本当に楽しかった!」と連呼する会長を見ると何だか本当のお父さんのように思えた。
タクシー代として10万円も入っていてまた怒涛の謝罪とお礼のメールを入れることとなった。
貧乏だけど、誰かから同情されて、恵んで貰いたいと考えていた訳ではない。
貧乏だからこそ、プライドを持って自らの手で稼いでいきたい。
だから、今回の出逢いはうろたえることの連続だった。
そう言えば今まで誰かに頼ったことはない。
支援ありがとうございます
それから暫くは大学もバイトも忙しい日々の連続で、会長の「就労」とやらも忘れかけていた。
家庭教師は相変わらず「重要」と赤ペンでびっちり埋まったノートとのにらめっこで、自分のレポートは〆切との追いかけっこだった。
学費はどうにか間に合いそうだったが、母からの追い討ちは手を緩めてくれなかった。
母もまた、金銭面では誰かにすがることをしてこなかった人間だ。
が、その頃は持病のメニエール病が悪化していたらしく、働くのが困難になっていた。
「お金を…」とせがまれることが多かった。
生まれた頃から実家は某カルト宗教団体にはまっている。
多忙な時期に、知らないおばさんが家を訪ねては、
「ちゃんとあなたが信心しないからお母さんこうなっちゃったのよ!」「何もしてないんだからせめて祈りなさい!」
と一方的に好き勝手喋っていった。