でもある日、事態は急転した。嫁は休みで職場に差し入れを持ってきた。
俺の好きなコーヒーに去年美味しかった限定パン。
あ~好きなもの知るのってこういう時に使うのかと今更納得した。
そして2人で社用車に乗り高速へ。
嫁は本を買いに行きたいそうで俺は仕事。途中で降ろす予定で乗せた。
ん?渋滞が出来てる?
事故か?事故だ!!燃えてる!!
え?嫁でてった!
ペットボトルの水でマフラー濡らして口に当てて炎上する車に突っ込んだ!
ススと火で真っ黒になった嫁が何か抱えて出てきた。
…ダックス犬とキジトラ猫だ。
人間は自力で脱出したみたいだけど、ケガしてる人が車を指差して尋常じゃないわめき方をしていると。
中に誰かとり残されてる!と救出にいった。
救急車と消防車がすぐに来て飼い主さんの搬送先を聞き、犬と猫は嫁が預かる事になった…が。
「あ、あの…。勝手な行動して申し訳ありませんでした…。社用車なのに…こんなドロドロじゃ乗れないのてすぐそこのパーキングでタクシー呼びます。」
いやタクシーも乗車拒否だろう…。嫁も病院に搬送されそうになったが、犬猫を預けてから行くと伝えてた。
「いいよ、そのまま乗って。やけど痛くない?」
「え…でも」
「気にしないの。確かに好きだけど俺、仕事とプライベート超区別するでしょ?好きだから乗ってって言ってるんじゃなくて
俺が責任を取るべき件なんだから、シートの汚れはあとで洗車に出すし…。猫と犬はどうするの?」
嫁はすみません…。と言いながら乗ってくれた。
犬も猫もかなり怯えててヒゲがチリチリになってたけど異常なし。こいつらは今でも元気。
おめーら助けてくれた嫁はもういないんだぞー。
天寿を全うしろよ~と伝えにいきたい。
そこから嫁が少しずつ素を見せ始めた。
「汚い服と動物の毛が車内に汚れがつく事もいとわず助けて下さいました。本当にありがとうございました。」
「俺は事情の把握出来てなかったけど判ってたら動物大好きだし間違いなく同じ行動したから気にしないでw」
「マジっすか!私もめっちゃ好きなんですよ!」
いきなりフランクになった衝撃は忘れられないwwww
時々クールな態度に混じってフランクな態度が出てきた。予想以上だった。
「どうやったら女の子に身体洗って貰えるんすかね」
「犬の糞かと思ったらかりんとうだった」
「あーやべー世の中のおっぱい1日だけ独占したい」
嫁の素はこんなだった。
美味しいもの、動物にくらいつき、バイクを駆り、ちょっと音痴で絵が下手。
俺が下ネタ嫌いなのもあって注意する事もあったけど概ね受け入れられた。
そして告白してオッケー貰えた!
「貴方がどういう人となりかは大体判りました。前向きに良好な関係を築いていこうと思います。ただ元カレを忘れる事を強制しないで下さい?その時点で終わりにします。」
条件つきの付き合いが始まった。
条件は楽だった。
嫁が特に俺と元カレを比較しなかった。
本当にいい彼女で幸せを噛み締めた。
いっぱいデートしたし構いまくった。
付き合って数ヶ月で不況から切り抜け、俺は超忙しくなった。
忙殺される日々で彼女をおざなりにしてしまった。
泊まりも一度もしなくなったし外にも出なくなった。
俺の家にきてクタクタの俺を静かに見守るだけだった。そして彼女の不満が爆発し、それは長く続いた。
もっと遊びたい、話したい、命の時間は無限じゃないんだよって。
俺は聞かなかった。
気持ちがささくれだってた「嫌なら別れよう」言ってしまった。
彼女は暫く呆然として「…判りました。もう文句は言わないです」
大人しくなった。
言い返さない。
俺は面倒が1個減ったようでラッキーと思ってた。
嫁は栄養のある食事を作りおきし、疲れの取れる入浴剤、アロマの加湿器を用意してくれた。
少しでも俺さんにとって良い環境で休めるようにと。
いつの間にかPS3と箱360、PSP、DSが揃ってた。
俺さんが気分転換出来るように、と。
でもこの環境でも俺は変わらなかった。仕事のストレスが半端なかった。
PSPやってると嫁がこたつで寝てる。
出掛けたり会話もほぼなかったけどこの時間は穏やかで心地良かった。
嫁の滞在時間が段々短くなってきた。
仕事も休職した。
そして気づいた時にはもう手遅れ。
彼女に治療の意思はなし。
「わたし、最期にあなたに遺したい…。」
配偶者がなくなった時の忌引き、見舞金、ありとあらゆる物を遺していった。
続きは後程。
涙で苦しい
すみません。泣きつかれて寝てました…。
嫁は俺が休まなくて精神も体調も良くないのをずっと気に病んでくれてた。
嫁が何かしてくれても俺は何も返さなかった。
俺の誕生日やクリスマスはそれは豪華に祝ってくれたよ。会話の端々から欲しい物とかリサーチしてくれてた。
でも俺は何もあげなかった。忙殺されて気づけば嫁の誕生日が過ぎてるとかそんなだった。
いつの間にか嫁は無口で大人しくなった。
きっと病気が判って俺にお金を遺すか治療して一緒に生きるか迷ったんだと思う。
忌引きの申請した時に社長に結婚してたのかって驚かれたよ。
はい、1日だけと伝えたら社長が号泣してた。
彼女の遺言で喪主は俺。
参列は俺のみ。
嫁は親と仲悪かったんだよね。私が死んでも誰にも言わないでお葬式にも呼ばないで貴方だけ参列してって言われてて。
今、嫁は小さな骨壺に入ってる。
いつの間にか嫁のドゥカティも俺名義になってた。
嫁の遺産は多少贅沢しても一生働かなくても大丈夫な額だった。
「貴方なら正しく使える。」
そう言ってくれた。
今は飯も食えんし頭も悲しみで一杯だし正直後追いしたいと思う。しないけど。
こんな暗い話を聞いてくれてありがとう。
たった1日の婚姻期間だったけど俺は一生忘れない。
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