ぼちぼち書き込みを再開していこうかと思います。
彼女はゲーセンを出ていった。
俺は混乱した。何か悪いこと言ったのか?
もう何がなんだか分からなくなってた。
無心で追いかけた。
「待ってください!どうしたんですか!?」
彼女は立ち止まって黙った。
俺はどうしようか困った。
なんて声をかけたらいいか分からなかった。
目の前で、ベレー帽を被って手や服を絵の具で汚した女の子が泣いている。
なんてヘンテコな状況なんだろう。
瞬間、俺はこんな事を口にした。
「そ、そうだ…これから画材屋さんにでも行きませんか?」
なんでこんなことを言ったのか分からないが、
何か状況を変えようと思ってとっさに出た一言だった。
彼女「え…?ほんとに?」
俺「はい、行きましょう、近場でどこか…」
彼女の反応は思ったよりよかった。
そして幾分ノリ気であった。
彼女「じゃあさ、近くにあるから行こう。ちょっと電車のるけど。」
駅に向かって、黙って切符を買う。
「JRって高いのかな?」
などと彼女は言っていた気がする。
ホームで電車を待ってた。時間帯もあって、駅はなかなかの雑踏だった。
無言で過ごす。さっきまで泣いていたのに、彼女は思ったよりケロッとしていた。
俺はよく分からない展開に動揺して、緊張して、足が震えてたかもしれない。
彼女の方を見ると、笑ってVサインをしたりしておどける。
俺「なんなんですかソレ」
彼女「わからんなw」
この道中も、彼女は決して自分のことを語ろうとはしなかった。
俺がひたすら話していた気がする。
「美大生なんて本当に憧れる」とか「絵が好きで上手くなりたい」とか
俺が終始しゃべっていた。
そのたびにニコニコするだけで、それがなんだか可愛く見えた。
でもなぜ泣いてしまったのか、そのことには触れられなかった。
画材屋に着く。
すると彼女は途端にテンションが上がって、
あ~どうしよう張りキャン買ってこうかな~あでも筆も…
などと顔をキラキラさせて俺を連れ回して買い物を始めた。
俺はリラックスしている彼女になら何か聞いても大丈夫だと踏んだ。
俺「楽しそうですね。」
彼女「ここ来るとやっぱね~テンション上がるよ。」
俺「でもこの前、もう絵描いてないって言ってませんでしたっけ…?」
彼女「いや、それはね…」
俺「気を悪くしたらごめんなさい…でもなにか知りたくて。
今日もいきなり泣かれてしまって…」
俺はもう彼女のことで頭が一杯だったから、知りたかった。
そして少しでも彼女の力になりたいと思っていた。
俺「なんで、いつもゲーセンに来てるんですか?なにか思い入れが?」
彼女「思い出があるんだよ、だから」
分からない。
もう分からないことだらけだった。
一体なんなんだろうこの人は。
そもそもただでさえこんな女の子がいつも一人でゲーセンに
来ていること自体不思議で仕方なかった。
俺「思い出って…なんなんですか?」
彼女「わたしの絵、見る?」
そういえば見たことなかった。
俺はそこで彼女のケータイから彼女の絵を見せてもらった。
そこにはポップンやら音ゲのキャラクタ、あるいは格ゲーキャラクタの絵があった。
とても可愛らしい絵柄で、おれは素直にいいなあ、と思った。
絵柄的には誰だろう…chancoさん辺りに近かったと思う。
俺「わああ!すごい上手いですね!」
彼女は満面の笑みになった。
彼女「ありがとう。」
彼女「私はただ本当にアーケードのゲームが大好きなだけ。」
しかしそれでもまだ合点がいかないことだらけだった。
なんで泣いていたのかがどうしても気になった。
俺「でも、本当に上手いですね。大好きな絵柄です!」
俺「やっぱりそっち関係を本当は目指していたんですか?」
彼女「ま…ね」
俺「そうなんですか…でもこれだけ上手かったらきっとまたチャンスありますよ!
俺は絶対応援しますよ!」
彼女「いや、もうそういうのは描かないって決めたことだから」
俺「? どうしてですか?」
彼女「君は若くて、絵が大好きで、きっといい子なんだろうね。」
俺「え、はい、あの…」
彼女「ダメなんだよ、気安くそう優しい事言っちゃ。」
いつになく真剣な顔になったので、怖かった。
目が真っ赤になっていた。
彼女「君はダメだ…。ダメダメだ。」
ダメダメって言われたのが妙に覚えている。
彼女「じゃあね、今日はここまでで。付き合ってくれてありがとう。」
帰り際にコピックマルチライナーを俺に手渡して、そそくさと去っていった。
俺は呆然として、追いかけることもできなかった。
何も分からなかった。
俺は完全に彼女にすべてを持っていかれてしまった。
しばらくメシもろくに食えなくなって、もらったマルチライナーで
落書きとかしてた。
寝ても覚めても完全に彼女のことしか思い浮かばなくなっていた。
でも連絡先すら知らなかった。
もはやゲーセンに行くということだけが、
彼女と俺を繋ぎとめる唯一の方法だった。
なるほど、ありがとう