さすがにこれはマズイことになってるだろうと、帰りに家に寄ろうと
思ってたんですが、昼休みに女子数人に囲まれる事態となるんです。
女子A「あんた、ミドリになんてことしたの!」
女子B「最初から分かってて面白がってたんでしょ!」
女子C「ホント最低っ!」
女子D「あんたのせいで、あの子、学校に来たくないって……」
なんでも、ボクがマネージャーさんの家から脱出後、ミドリは彼女に
呼び出されて全てをブチまけられたらしい。
しかも、マネージャーさんはボクが最初から全てを知っててミドリの
恋愛ごっこを生暖かい目で楽しんでた、と言ったようです。
だったらしいが、それよりも、信頼して全てを話してたボク、自分の
味方で応援してくれてると思ってたボクがそんな悪趣味なことをしていた
ことが相当ショックだったとのこと。
それで「もう誰も信じられない!」となり、塞ぎこんでいるらしい。
ボクは、すぐに携帯でミドリに連絡しようとしたが……
着信拒否だし……
メールで「すぐに会って話がしたい」と送信したが
返ってきたのはデーモンだ。アドレス変更してやがる。
でも、インターホンを押そうが、玄関で叫ぼうが誰も出てこない。
ボクは、とりあえずノートの切れ端に「会って話がしたい」
と走り書きしたモノを郵便受けに放り込んでおきました。
ボクのことはガン無視。
ボクは、なんとか話をしようとチャレンジしたんですが、まったく反応ナシ。
一週間くらいはボクも頑張ったんです。聞いてくれなくても謝りもしました。
もう、お手上げですわ。
ここまで無視されると、さすがに面倒になってしまいましてね。
もう、どーにでもなーれ状態です。
というわけで、ミドリとはここから疎遠になるわけです。
夏休み前くらいだったと思います。
当然のことながら、先輩とマネージャーさんは別れることになって
しまいました。
なんだか自分のせいみたいで非常に申し訳なかったんですが
先輩によると遅かれ早かれ別れていただろうとのことです。
先輩がミドリに走りかけたのも、マネージャーさんと色んな意味での
すれ違いが増えてきたかららしいです。
って、そんなものなんですかね……
やたら絡んでくるんですよ。別に嫌がらせをされるわけじゃないんですが
他の部員と比べて特別扱い、というか妙に甲斐甲斐しくってね。
ボクは1年のサブでしたから、飲み物とかタオルとかはマネージャーさんから
渡してもらえる身分じゃなかったんですが、なぜか主力並みの扱いを受けてました。
どうやらメンバーの中では、ボクの“略奪愛”しかもキャプテンの彼女を奪う
というなんとも刺激的なストーリーが完成していたらしく、もう二人の
一挙手一投足に注目が集まる状態。
おまけに、部活終了後はボクがどんなに急いで帰ろうとしても
マネージャーさんが自転車置場の前で待っているわけで、ボクは仕方なく
一緒に帰ることになるんです。方向が違うのに。
マネージャーさんは、一生懸命話題を作って話しかけてくれますが
ボクは失礼のない程度に相槌を打つくらいで、決して楽しい会話じゃないのに。
でも、そんな状態が、しばらく続いた頃、ボクの心境に変化が出てきたんです。
マネージャーさんのことが「なんだかカワイイかも?」とか思えてきて。
そのせいで会話が少し続くようになってくると、彼女がスゴく楽しそうに
してくれるわけです。
だから思い切って、というか調子に乗って聞いたみたんですよ。
「あの……何でボクに優しくしてくれるんですか?
ボクは先輩の件で恨まれてるハズじゃ……」
「そのことは、もういいの。彼とは終わるべくして終わったから
それより、気になる男の子に優しくしちゃダメなのかな?」
「いや、その……さすがにマズイかなと……先輩の手前もあるし……」
「だったら、3年生が引退してからだったら、いいのかな?」
なんだか、妙に畳み掛けられてる感じがします。ああ言えばこう言う感じで。
どんどんコーナーへ追い詰められるボクサーのような雰囲気です。
そして、とうとう何も言えなくなってしまいました。
「じゃあ、秋の大会が終わったらキミに告白するから
その時は真剣に考えてね」
彼女はそう言うとボクの前から、さっと消えてしまいました。
ボクは、今の言葉を脳内でリピート再生します。
今“告白”って単語を使ったよな?? それって、そういうことなのか??
縁のない人生でした。それが美しい上級生から“告白”ですか??
ついにモテ期が到来したんでしょうか? いや襲来か?
何かが起こるかも? と期待して勝負パンツまで持参した夏の合宿も普通に
終了してしまいました。 あれ?
ひょっとすると彼女なりの復習劇だったのかもしれません。
一瞬でも喜んだ自分が恥ずかしくなりましたよ。
引退するわけです。もちろんマネージャーさんも。
ボクとしては、ミドリの件もマネージャーさんの件も、封印したい過去
という扱いで意識的に二人を避けてました。
ミドリは相変わらず後ろの席ですから、否応なく毎日視界の端には
入ってくるわけですが、もうボクは彼女を視界の中心に捕らえることは
なくなりました。
移動する感じです。そう、明らかに避けてましたです。今度はボクの方が。
その時、彼女がどんな表情をしていたかなんて知りませんでしたよ。
見てないわけですから。
校内は学園祭の準備が慌しくなる頃で、サッカー部は毎年“焼きソバ屋台”
を出展することになってるようです。
んっ?焼きソバ……なんとなくイヤな予感がしますよね。それ、当たりです。
部の伝統として、引退した3年を含むマネージャーの指導の下に1年メンバーが
調理することが決まりになっていると、その時に初めて聞かされたんですよ。
う~ん、これは……ボクは、例のマネージャーさんとペアになるわけです。
気まずいです。みんな明らかに面白がってます……
そして、とうとうその時が訪れます。
マネージャーさんと二人で食材の買出しに出かけた時です。
買い込んだ大量の食材のせいで両手が塞がり、動きに自由度が減ったボクに
彼女が接近してきます。これはヤバイ雰囲気です。
「3年生は引退したね……」
「そうですね」
動きにくいといっても相手は女性。全力で走れば振り切れると思ってました。
いざとなればショルダータックルで……とか無謀なことも考えてます。
「山下君、いつかの話を覚えてる?」
「何の話でしたっけ?」
しっかり覚えてますが、全然覚えてませーん。もう逃走準備完了です。
何か適当な理由をつけてダッシュでその場を去ろうとするボク。
ところが彼女はボクの進路を巧みに塞ぎ、距離50cmの真剣な表情で見つめます。
近いってば。
しかも袖を摘まれた状態ですから、逃げるに逃げられません。
そして、結構ヘビーな話をしてくれるわけです。
先輩とは真剣に付き合っていたこと。
別れてしまったのは残念だけど後悔はしてないこと。
でも、毎日一緒に帰るようになってなんとなく気持ちが落ち着いたこと。
それが恋なのかどうかは自分でも分からなかったこと。
だから自分の気持ちを確かめるために“3年生の引退まで”と期間をおいたこと。
そして、今日結論が出たらしいです。
「だからね、山下君。私と付き合ってくれないかな? 年上は嫌い?」
「年上だから嫌いとか、そんなことはないです……」
「だったらオーケーということで、いいかな?」
ここまで聞いて、ボクは初めてマネージャーさんの目を見ました。
少し年上の美しい女性が、なんとも不安げな表情で自分を凝視している姿に
抗う術は、男子高校生にはありませんでした……
というわけで、ボクはマネージャーさんと付き合うことになったわけです。
ただ、彼女はあと数ヶ月で卒業ですし、なんといっても、受験の追い込み
時期ですから、休日にデートとかはできないんですよ。
それでも毎日一緒に帰るのは、楽しかったです。
そして意外にも? 彼女は純真というかカワイイところがあるんで
ドキドキしました。
先輩から“あんな話/深夜編”を聞かなければよかったなとかは
ちょっと思いましたけどね。
これで、第一部が終わりです。ありがとうございました。
なんだか、ハッピーエンドに見えますけど……
明日は「第二部 復習編」を投下したいと思います。
では、おやすみなさい。