さて夕暮れの迫った校門。
彼女が壁にもたれかかり、ボクを待ってました。
アンニュイな雰囲気で可憐さが一層引き立ち、なんかこうゾクゾクっとしたことを
覚えてます。
「ごめんごめん。顧問の説教が長くてさ」
さっきのゾクゾク感を誤魔化すように言うボク。
「いい……さっき来たとこだから」
どうやらボクは憂いを含む女性の表情に弱いようです(笑)
でも、数年間の彼女との時間がボクと彼女の関係を“友達”に固定して
しまっていましたね。
ついて来ます。
これは誰か好きな男ができたんだろうなと思いましたね。
過去にも似たようなことが何度かありましたから。
嫉妬心とかそういうものは、まったく感じなかったですよ。
同性の友達が誰かに惚れたとか聞いても何も思わないのと同じです。
ボクの中での彼女はそんな感じだったんです。
ファーストフード店に着くと端の方の席を陣取り、ポテトと飲み物だけで
じっくり話を聞くことにしました。
ボクはもう答えはわかっていたんですが、とりあえず通過儀礼として
尋ねることにします。
「で、どうしたんだ?」
ストローの袋をコネコネしながら、ちょっと拗ねたように俯き加減で
視線を合わさず、とんがった口で呟きます。
「……男性の意見が聞きたい……」
(ほらきた)見覚えのある光景です。毎度のことですが同じ仕草で
同じ内容を言うんですよ。コイツは。
とりあえずボクは、いつも同じ反応をするしかありません。
ここで、何か違った反応(どんなだ?)でもすれば、ボク達の関係が
変わったりしたんでしょうかね?
その時はそんなことは、考えもしませんでしたけど。
「それで、今度の相手は誰なんよ?」
「……サッカー部のキャプテン」
「え――っ! 早川先輩(仮名)かよ」
いや、驚いた理由はそれだけじゃないんですよ。
その先輩には彼女がいたからです。
ありがちなんですが、3年のマネージャーさんがそれです。
ちょっと派手目ですけど、かなり綺麗な人です。モデルみたいです。
ボクは迷いました。その事実を今ここで伝えるべきかどうか……
伝えないことにしました。
今日はミドリを元気づけるために来たわけですからね。
明日でいいや、とか思ったんですよ。
それに、話を聞いてやれば少しは落ち着くだろうし
それからでも遅くはないと考えたからです。
ミドリは、どんどん元気になってきました。
ボクとしては他の男のカッコよさなんて聞かされても
あんまり面白くなかったんですけどね。
ボクなんかよりも随分上手いです。
ただねぇ……女性とのアレコレを自慢げに話すタイプなところがねぇ~
聞く方は楽しいんですよ。ソノ手の話は、こっちも興味津々ですから。
でも、その話を聞いた後では、気まずくなるんですわ。
文章からするとけっこうなお年ですね
>>28氏
そうですね。30代ですよ。
モノを書くことが多い仕事なので、回りくどい文章になってますかね。
恐縮です。
――
マネージャーさんを見るともう妄想全開になっちゃって……あんな綺麗な人が
そんなコトをするなんて……ついパンツを押さえてしまいますよ(笑)
ボクは、ひょっとしてこの先いつかミドリと先輩のアレコレを
聞くことになるのか? とか考えてちょっと困ったような
気になったことを覚えてます。
もう飲み物の氷が溶けるだけじゃなく、紙コップまでユルユルに
なった頃にやっと解散となりました。
ミドリからは先輩のアドレスを教えろとか、今後の試合スケジュールを
教えろとか、弁当を作りたいから食べ物の好き嫌いを教えろとか
色々と言われましたから。
なんだかスゴーく盛り上がってるんで、つい彼女がいることを
言えずにいたんです。
つーか、先輩とマネージャーさんのやり取りを注意して見てりゃ
ふつーは気づくハズなんですけど、コイツは気づかないんだよなぁ。
ひょっとして相当ニブイのか?
仕方がないから段取りをしてやりましたよ。
部活が終わった頃にボクに声をかければ、できるだけ自然に先輩と
話ができるようにしてやると。
まあ、やってみたんですけど全然自然じゃないのね、これが。
なんかマネージャーさんに睨まれましたけど、ボク。
その日の帰り、ミドリはテンションが上がってました。
「一歩前進ナリ!」とか言ってましたね。
そういえば、ボクは最近ミドリと一緒に帰ることが多くなりました。
なぜかミドリが校門で待っているせいで流れ的に、そうなってしまうんです。
で、ひとしきり先輩のカッコいいところを聞かされるというわけでして。
あー面白ないぞー(笑)
とかいいつつ、ボクは楽しかったようです。
ところが……
ミドリを先輩に近づけたことが、ボク達をとんでもない方向に進める
きっかけとなってしまったんです。
一週間後くらいだったかな、早川先輩がボクに話しかけてきたんです。
「よう山下! あの子、そう、ミドリちゃんってカワイイよな」
「へ? なんすか急に?」
「昨日の帰りにファーストフード店で偶然会ったんだけど
カワイイなとか思ってさ。で、あの子はおまえの彼女なのか?」
先輩からミドリの名前がでるだけでも、ドキッとするのに彼女かどうか
なんて聞かれたものですから、相当慌ててしまいました。
傍から見ると滑稽だったと思いますよ。ひとりで赤くなってバタバタしてた
わけですからね。
「ちがっ、違いますよ」
ボクが否定するのを見ながら腕を組んで何かを考える先輩。
そして、呟くようにさりげなく爆弾発言をしてくれます。
「そうか……じゃあアタックしようかな?」
「え?! 先輩……マネージャーさんが……」
「マネージャー? 気にしない、気にしない」
ボクは内心(これはマズイことになったかも)と思いましたね。
ひょっとして先輩は手当たり次第とか、そういう系の人だったのか?
となるとミドリが可愛そうだし、なんとかしないとマズイ
非常にマズイ。
帰りは相変わらずボクと一緒なんですけど、彼女は途中から先輩との
待ち合わせ場所へ向かうことがあったりしました。
休日デートもしたみたいです。
>>37氏
すいません。
書き溜め分なので、つい投下が多くなってしまいました。
気をつけます。
――
まあ、会話の内容やデートの様子はこっちから聞かなくても
嬉しそうに逐一話しますから、まだ深い関係にはなってないらしく
ボクは少し安心してたんです。
まあ、ミドリはマネージャーさんと違ってそこまで踏み込めない
だろうとは思ってましたけど。
というか、なんでコイツはここまで詳細をボクに語る必要があるのか
理解できませんでしたね。ボクが聞き出してるわけじゃないですよ。
そんなことよりも、早く彼女がいることを伝えなければ……
彼女が悲しむ顔を見たくないというのもそうなんですが、言ってしまうと
もうミドリとこうして一緒に帰る理由がなくなってしまう……
という複雑な心境だったのも理由だったような気がします。
今、思うとこれがいけなかったわけです。
そんなある日……