不安げな表情の女性が自己紹介をしてくれました。
「はじめまして、ミドリの姉の○○です」
普段はダラダラしてる3人ですが、この時はできるだけ好印象を与えようと
いつもの3割増くらいの気合で話します。面接の要領です。
「ミドリさんと同じクラスの山下、虹ヲタ、メカ夫です」
「妹のことでは、ご心配をお掛けしてすいません」
本当に申し訳なさそうに、お詫びをする女性。
そんなに謝られたら困ってしまいます。別に彼女がボク達に
迷惑をかけたわけじゃないですし、今の状況だってボク達、いやボクが
勝手にやってて、残りの二人は渋々つき合ってくれてるだけなんですから。
どうやら、ここから先はボクのターンらしいです。
ボクは相当テンパっていたので、何をどう説明したのか覚えていないです。
自分でもよく分かっていなかったから。
でも、内容は伝わらなかったかもしれないけど、必死さは
伝わったんじゃないかと思います。
「あなたが山下さんだったんですね。妹からよく話を聞いてましたよ。
中学の頃からね。そういえば夏休み前かな、あの子、その頃すごく
楽しそうだったんだけど……」
非常に辛いところから話は始まりました。
そこを突かれると、ちょっと心が痛いです。
なんだか気まずい雰囲気が漂い始めたんですが、ボクは三人で
事前に打ち合わせたシナリオ通りに進めます。
「彼女に何があったのか、ご存じないですか?」
直球勝負です。
お義姉さんからは一瞬の間を置いて、一見関係のないような言葉が出てきました。
「実は私、来年結婚するんです」
「はい……?」
話の流れが掴めず戸惑い、顔を見合わせる三人。
「私、あの子と二人で住んでるから、あの子一人になっちゃうのよ」
その言葉で事情が分かりました。
そうでした、この姉妹は二人で住んでいたのでした。
「それが悲しいと(ああなるのか?)」
ボクは言葉の後半部分を飲み込んだ。
「それを伝えたのが、ちょうど夏休みだったかな。
あの子ショックだったみたいで……それと……」
お義姉さんは、言っていいのかどうか躊躇う様子。
「彼女の昔の仲間のことですか?」
ボクは思い切って言ってみた。この辺が核心になりそうだったので。
「……そう、知ってるんだ……」
お義姉さんは、ポツリポツリと噛み締めるように説明してくれました。
(荒れていたといっても、派手な格好で、似たような子が集まった
グループに居ただけとの説明です)
妹の前に現れたのは、たぶん荒れていた時期の仲間だと思うけど
転校後、昔の仲間とは全く付き合いがなくなっていること。
だから、そいつにしてもストーカーみたいに付きまとっているだけで
妹も困っているハズだと。
ボク達三人は、まだ釈然としない表情だった。
今の説明を聞いても、彼女が華麗な変身を遂げた合理的な説明が
つかなかったから。
そして、お義姉さんは続けます。
「あの子、ひとりでスゴく不安なんだと思う……中学の頃も……
お父さんの再婚からあんなふうになっちゃったし……
たぶんだけど……あの子、一人になりたくないんだと思う。
だから、誰かに助けて欲しかったんじゃないかと思うの。
夏休みの間もずっと山下さんからの連絡を待ってたみたいだったし」
この言葉を聞いて、三人がビクッと固まります。ボクは頭を抱えます。
期待させて肝心な時に逃げてしまったことになっているようです。
しかも、絶望まで与えてしまった様子。
激しく落ち込むボクと、それを責める視線の二人を見て
お義姉さんは慌てて言葉を続けます。
「違う違う、山下さんを責めてるわけじゃないのよ。
私がいけないんだから……今回は、私が居なくなることが凄く不安
なんだと思うの。
そこに、現れて欲しくない昔の仲間が現れたりしたから、あの子は
もうどうしていいのか分からなくなって……」
それで、転校前の頃みたいになってしまったと。
その時は結果として、お義姉さんが自分を救ってくれたという一種の
成功体験みたいなモノが、彼女の深層心理にあるのかもしれない。
ということは、今回も誰かが彼女の前に現れて彼女を絶望の淵から
救ってあげないといけない。それがボクでいいのか……?
鋭く刺さっている。痛い。
彼らの目は「お前が悪い」という非難の眼差し。
そうだろうな、彼女が一番助けを必要としていた時期にその期待を
裏切って逃げ回ってた奴が、誰あろうボクなんですから。
でも、言い訳をさせてもらえるなら、ボクはその辺りの事情を全く
知らなかったわけで……
知ってたら、絶対に彼女を助けに行きましたよ。
逃げたりなんてしません。たぶん……
沈黙に耐えられなくなった虹ヲタが、口を開きます。
「お義姉さん、大丈夫ですよ。
妹さんのことは“コイツ”に任せてください」
って、えっ? ボク? ですか?
メカ夫が続きます。
「そうですよ“コイツ”なら絶対に妹さんを元気な姿に
戻せますから。もちろん、ボク達も手伝います」
やっぱり、ボクなんですよね?
自信満々で無駄に力強い言葉を聞いて、お義姉さんは安心したような
不安なような複雑な表情をしてました。
あと一押し、ボクの決意表明があれば、その表情が少しだけ安心側に
振れそうな雰囲気なんですが……
基本的にヘタレなボクは、なかなか言葉が出ないわけです……
もう友達二人は怒りの目になってます。爪でテーブルをカチカチと
叩き始めています。テーブルの下で足も踏んづけてきました。
>>438
もうちょいで頑張れそうです。
――
『いい加減、覚悟を決めろ!』という声が聞こえてきそうな目と
態度だったです。
お義姉さんはというと、期待と不安に満ちた目でボクを見つめてます。
三人の視線に後押しされて、ついにボクはその決意を口にすることに
なります。
「ボク、彼女を助けたいんですっ!
余計なお世話かもしれないけど……」
「山下さん……」
お義姉さんの顔が一瞬、輝いたように見えました。
決意表明、所信表明演説、なんでもいいから更に続けます。
「今日は、お義姉さんにそれを伝えたくて会いに来たんです。
だから……彼女にもう一度笑って欲しいから……
精一杯やってみますっ!」
虹ヲタとメカ夫が大きくうなずき、テーブルの下で拍手したように
見えました。
お義姉さんは、号泣状態でボク達三人の手を取って喜んでくれました。
あの子をよろしくお願いしますと、深々と頭を下げて帰っていきました。
言っちゃったよな……こりゃ責任重大だぞ……
他人の人生背負っちゃった感じだし。
ボクと二人の友達は自分達の発言の重さに、かなりビビッてました……
切りのいいところまで投下できましたので
続きは明日ということで、お願いいたします。
それでは、おやすみなさい。
明日も読みます
>>445
長時間お付き合いいただき、感謝です。
明日も来るのは、夜になると思います。