それでまた虹ヲタと、メカ夫に相談したわけです。指輪のことも話して……
「おまえなあ、頭大丈夫か?」 虹ヲタが心配そうに言います。
「悪いことは言わん。やめとけ」 メカ夫が諭すように言います。
「今さらあのビッ……いや、彼女に近づいてどうするよ?」
虹ヲタはさすがにイラっときたのか、暗黙の禁止用語を
うっかりと言いそうになってました。
「おまえが仲の良かった頃とは違いすぎるぞ。
もう幻想を捨てて現実を見ろよ」
メカ夫も呆れたように続けます。もう全否定モード。
「でも、見てられねーじゃん。いっつも一人で……
なんかあるんだよきっと。カワイそーじゃん」
ボクも必死でした。コイツらには分かって欲しかったんです。
たとえ協力してもらえなくても、コイツらには理解して欲しかったんです。
彼女を……
「おいおい、マジですかぁ~?」
肩をすぼめながら両手を天に向けて“やれやれ”という仕草を揃って
しながら、生暖かい目でボクを見つめる二人。
とか言いつつ、二人とも真剣に考えてくれることになりました。
やっぱり友達はありがたい。
さて、考えるとは言ったものの何も浮かばない。
すると虹ヲタが、何だか怪しげな推理を展開し始めました。
手詰まりのボク達は、今は怪しさ満載の彼の推理に耳を傾けるしかありません。
「きっと、どこかでフラグが立ったということだよね」
「フラグ?」 ボクとメカ夫が怪訝そうに繰り返します。
「映画を観に行って、指輪を買わされたところまでは
問題なかったんだよね?」
虹ヲタは構わず持論を展開していきます。
「なら、その周辺になにか選択肢があったハズ。
おまえは“Bad Endルート”を辿ったんだよ」
「選択肢……? ないなぁ。彼女に言われた通り、動いただけだし」
ボクは、正確性に自信のない記憶を辿りながら答えます。
「じゃあ、環境変数だ。彼女の心境に変化を与える何かがあったハズだ」
コイツ……完全にギャルゲーとして考えてやがる。
でも、今はコイツしか頭を働かせてないから仕方ない。
「そういえば……気のせいかもしれないけど」
ボクは映画の一件よりも、更に古い記憶を辿ります。
「なになに?」 二人が食いついてくる。
「彼女の家の前に、変な色のスクーターが停まってたことがあって……」
「それで」 話を聞く前からこれが原因、と決めて掛かりつつある様子の二人。
「そのスクーターを見た彼女が、急に黙り込んだことがあったんだ」
それは夏休み前のことでした。いつものように彼女を家まで送っていくと
いかにも柄の悪そうな目立つスクーターが停まっていたんです。
オーナーらしき人影は見えなかったんですが、彼女の顔がみるみる曇り
黙り込んでしまったわけです。
その時は「おや?何だろ?」くらいにしか考えなかったんですけど。
「……むぅ、そのスクーターってカナブン色みたいなやつ?」
機械モノの記憶については
コイツの右に出る者はないメカ夫が言います。
「そうそう、ラメ入りグリーンみたいな色」
ボクの記憶はいつも曖昧ですが、さすがにカナブン色のスクーターは
しっかりと記憶に残ってました。
「それなら、オレも学校の周りで何度か見かけたな。結構弄ってるヤツ
だったから覚えてる」
さすがメカ夫だ。ノーマルではないところまで覚えてるらしい。
というか、あのカラーリングで、ドノーマルってことはないわな。
「……それだな」 虹ヲタが満足そうに頷きます。
虹ヲタの推理では、そのスクーターのオーナーと彼女には何らかの
接点があり、彼女はそれを好ましく思っていなかったんだろうとのこと。
その件は、きっと学校では知られたくないレベルの話ではないかとの推理。
追いかけてくれることになった。なんでも、あれだけ弄ってるならどこかの
ショップに頻繁に通ってるハズだ、という読みでした。
何日かして、メカ夫がニヤニヤしながらやってきた。
カナブン号は読み通り、簡単に見つかったとのこと。
なんでもオーナーは、○○中学の卒業生で現在は高校を中退して何か
日雇いのような仕事をしているらしいとの情報だった。
面倒な輩が出てきたなぁ~、というのが正直な感想でした。
メカ夫がカナブン号を追いかけてる間、虹ヲタはミドリの過去を洗っていた。
彼女と同じ中学出身の同級生から、知り合いの元教師、果ては親同士の
ネットワークにまで食い込んで調査してくれたらしい。
お前、卒業したら探偵事務所でも開設したらどうだ?
そこで分かったことは、噂を含めて次の通り。
次に、父は再婚しており、義母の連れ子の義姉がいること。
そして、義母とは折り合いが悪いらしく、現在は義姉と二人で暮らしていること。
最後に、義姉とは非常に仲が良く、二人で外出しているところをよく目撃されていること。
転校前の中学が同じでした。
ボクは、さすがに彼女の転校前の状況は知らなかったです。
それどころか、お義姉さんと住んでる、なんてことも初めて知りました。
彼女とは4年くらい近くに居たわけですが、そんなことは全く知らなかったですよ。
うぅぅ……
そこで、ボク達三人が想像したストーリーは次のようなもの。ありきたりですが。
親の再婚
↓
義母と折り合い悪し
↓
娘荒れる
↓
不良グループへ
↓
更正して転校
↓
高校入学
↓
昔の仲間登場
↓
再び荒れ始める ← 今ココ
>>401
感謝!
――
となると、昔の仲間とやらを何とかすればよいのでは? なんですけど。
ここで三人は悩むわけです。
サッカー小僧とピザとメカヲタのトリオでカチコミとか、ありえんわけですよ。
ヘタすりゃ命だって危ない気がするじゃないですか。
張れませんですよ。
いや、ボクだってそこまでの覚悟はないかもです。すいません。
となったわけです。
もし、どんな形であれ、今はカナブンと、よろしくやってるのだとしたら
ボクの出る幕ではありません。まったく余計なお世話でしょうし
馬に蹴られて死ねるレベルです。
それに、趣味の悪いスクーターのオーナーとかって、なんか物騒な感じがする
じゃないですか……すいません。ヘタレで。
とは言うものの、義姉の歳がいったいいくつなのかも知らないし
学生なのか仕事をしてるのかも分からない、そういえば、ボクはミドリの
家の場所は知ってても、電話番号は知らないんです。
>>406
立派な、ダメンズなわけでして……
>>408
恐縮です。
――
というわけで、彼女の自宅を急襲、いやノンアポで訪問することにしました。
時間は彼女が家にいない時間の方がいいかと思って、まず金曜の午後
授業はサボりました。一度目は空振りです。
次は月曜日の午前。二度訪問の訪問です
がんばれー
>>410
ありがとうございます。
――
ボク達三人は、制服のシャツをパンツにピッタリと入れて
全ボタンを締めて、ネクタイを首まで上げたサラリーマンスタイルで
彼女の家の玄関前に立つわけです。
「ピンポーン」 緊張の一瞬です。
「はぁ~い」
インターホン越しに若い女性の声。
小さくガッツポーズです。
この瞬間に「もう戻れないぞ!」と思ったのを覚えてます。
いわゆる「賽は投げられた」状態です。
おもしろいです
頑張れー
>>413
頑張りますー
――
「こんにちは。○○高校二年○組の山下と申します。
妹さんの件でお話したいことがあります」
事前に何度も練習した言葉を噛まないように、マイクに向かって一気に話します。
ここで怪しまれては先に進むことができません。
「……今、開けますね……」
玄関に現れたのは、心配そうな表情の女性でした。
ボク達は、さっきインターホンに向かって言ったことと同じ内容のことを
言いました。大事なことなので2回言ったわけではありません。
すると女性は、ここでは話がしにくいので近所のファミレスで
待っていて欲しいと言うと、家の奥へと消えていきました。
指定されたファミレスで待つこと約30分、先程の女性が現れました。
ボク達三人は直立してから90度の礼でお迎えします。百貨店の店員並だし。