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101名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:25:16 ID: ID:X3u

親戚の足も少なくなり始めた頃。

祖父は装置を持ち運びながらだが、外に車いすで散歩することを許された。
病室も例の病室近くの個室へ移動した(不謹慎な話、ちょうど開いたので)。

流石に退院とまでは行かないが、先生も認めるほどすごい回復力だった。
祖父の来月の誕生日も無事に迎えられるんじゃないかと、言われていた。

病院の庭は、患者さんたちが趣味で使用していい花壇があり、
ゴチャゴチャと、それでいながら一年通して常に何かしら見物がある場所だった。
祖父曰く「まったく統一感がない庭だなwでもそれがいいなww」と。
また大きな桜の木の前に来て「こりゃ、咲き誇ったらすごいだろうな」と常にいっていた。

残念ながら近くの大きな公園までの散歩は許されなかったけど、
祖父にとってはここら辺や、同じ所だけでも、十分に満足だったそうだ。

 

102名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:35:50 ID: ID:X3u

散歩をしていると、祖父はふっと思い出したように
ボケていた時の自分の行動について話すことがあった。「あの時お前に○○してすまなかったなー」や、「あの時は助かった」など。
俺が役所やヘルパーに罵られたことを祖父の横で恨み辛みたっぷりに言っていたことも覚えていた。
また、何度か掴み合いしたことも覚えていて、ただ俺に非がある所は「ま、お前もなぁ……」と。受験だったから、疲れていたから、などなど。
そんな理由からイライラしていたのも間違いないし、それに関しては俺も謝った。ただその都度、祖父はイタズラにニヤニヤして「まw俺も悪いんだけどなw」と言ってきて参ったw
あの人分かっていながら責めてくるから、憎たらしいwwただ本当に元気になっていっていたと、思っていた。そんなある日だった。
いつものように散歩していると、祖父が「前々から言おうと思っていたんだがー」と言ってきた。
俺は「どうしたの?」と聞くと、祖父は「そこのイスに座ろうか」と。
俺がイスに座り、その横に祖父。そして祖父は空を見上げながら「おめー、会社大変だろ?」と聞いてきた。

俺は息がつまり、頭がカーッと熱くなり、胸が痛くなった。
実際の話、俺の会社は息詰まっていた。

大企業の子会社と聞けば耳障りいいかもしれないが、近年は大企業でも経営困難な所が多い。
その煽りを見事に俺も受けていた。

たぶん「このスレ主、爺ちゃんと居すぎだろww」と思った人いるかもしれないが、
本当にこの時は、祖父と一緒にいれまくるほど暇していた。

 

105名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:46:53 ID: ID:X3u

祖父は「へへwカマかけたら簡単に引っかかってやがるのw」とゲラゲラしてた。
ただ「話してみろ―」と言うもので、思わず話をした。さっき大人の事情と言っていたけど、本当に大人の事情だ。
でもって当時、俺がいる会社はかなりヤバかった。元々祖父と父に憧れ技術者に憧れ大学に行ったが、
自分にはセンスがないどころか、大学に行ってから『自分には合わない』と気がつけた。
だからこそ、事務として今の会社に入社した。
当時は大学でも「大企業の子会社だから」とかなり煽てられたものだが、実際は給料も安く、
また技術者と違って賞与も一ヶ月(技術者なら最低3ヶ月もらえる)、冬の賞与はなしな、会社だった。ただ、そこで開花したというか、俺は営業になっていた。
営業には専門知識や現場の空気や内容を知る必要があったが、
たぶん、祖父の工場や父親の影響もあって、そこら辺を汲み取ることに長けていたんだと思う。でも会社だって不況の煽りは受ける。
最初に俺の先輩であり敏腕だと誰もが認める先輩が会社を辞めたのを聞いた時、本当に焦った。
そしてその先輩が親会社の社員になったと。
会社の中でも「使える人間を上が引き抜いて、ここは切られる」ともっぱらの噂になった。次に給料が思っきり減った。25万が13万である。
そもそも給料の計算が『時給』になった。いや、普通に時給なんだけど、基本給がなくなったと言えばいいか。

技術者たちより月々は多くもらっていたが、技術者たちと同じぐらいだ。
賞与は年二回の一ヶ月分に統一されたが、これに技術者たちは不満を覚えた。

気がつけば有能な若い衆は全員引き抜かれていた。
残ったのはまだ声がかかっていないだけだろう若いのと、オジサンばかり。
営業は俺とまだ教育途中の女の子2人だけ。

社長は「首つる訳にはいかねぇ、つりてぇ、つらねぇ」と危なっかしい言葉をトイレで吐いてた。

 

104名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:40:43 ID: ID:eFK

大変だったろうが、良い祖父さんだな
俺の大好きだった婆ちゃんもボケて俺が誰かもわからん状態だったが、亡くなる前の最後の一言は俺の名前を呼んでくれたと聞いた
人間って本当に凄いと思うわ
もう少しで完結だと思うが最後まで楽しみに読んでる

 

106名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:47:29 ID: ID:X3u

>>104
俺の祖父も、この後言うけど、似たような感じだったわ

 

107名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)13:55:01 ID: ID:X3u

この話を祖父に言うと、祖父は不思議そうな顔をして
祖父「なんでそこを捨てねーんだ?」と。そりゃそうだけど、俺もバカなのかもしれないが、
辞めていった敏腕じゃない方の先輩にあることを言われていた。「あとは任せた。そして俺が上にあがったら、この会社を潰させないようにしてやる。
社長にはすべて話した。待っていてくれ。社長を支えてやってくれ。
駄目だったら意地でもお前だけは絶対に掬い上げるから」祖父は「バカが信じているのか、そんな話」と言っていた。俺にとってその先輩が社会に出て初めての先輩肌であり、本当に信用している人物だと伝えた。
我が家での出来事を話して、他人の話なのにも関わらず本気で泣いてくれたのもその人だけ。今も、祖父の一件を伝えた所、会ったこともないのに喜んでいた。
そして口癖のように「待ってろ」とだけ言われているから、待っていると伝えた。

祖父は「お前は、バカバカだな……」とニヤニヤしていた。

祖父は最初に「クビになるまでしがみつけ」と言われた。
次に「己の見通しの悪さをなんとかしろ」と言ってきた。
祖父だったら転職活動は始める、と。
辞める気はなくとも、転職活動はするそうだ。

そして最後「その先輩に合わせろ」と言ってきた。この時の祖父は怖かった。

 

108名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:02:23 ID: ID:X3u

先輩にこの事を伝えると、祖父が元気になったことに興味津々だった先輩は、
喜んで会いに来てくれることになった。
とは言え、仕事の合間に抜けて会いに来るとのことで、話して二日後には本当に来た。その日は、先輩が着ている間、祖母と母は病室に入れないことになった。先輩が「はじめまして、○○です」と礼をすると、
祖父は「お前か、甘っちょろい事を言っているバカは」と第一声思っきり罵倒した。
先輩は一瞬呆然としたが「あはは、まあそのバカです」とニコッとした。先輩はすかさず名刺を取り出し、祖父へ差し出した。
祖父は両手を無理して伸ばして名刺を取り、ただそれを悟られないように胸へしまった。その対応に祖父は気に入ったのか、祖父は「イキナリ威嚇して悪かった」と言った。先輩はお世辞なのか、なんなのか、迷わず俺が散々祖父のことを心配していた話を述べた。
だが、同時に「祖父さんの事で、結構悩んでいたようですがね」と鋭い一言を挟んだりしていた。

俺からしたら「先輩余計なことを!w」と思ったが、先輩は「いや、言って平気な人だと思ってた」と後教えられた。

先輩は親会社から派遣のように子会社へ送られ、そこで営業をしていると教えられた。
とてもじゃないがウチの会社をどうにかできるような会社ではないと俺は知った。
それは祖父も分かったようで

祖父「本題に入るけどな、お前がこのバカ孫に背負わせた責任で、
このバカ身動きとれなくなっているんだ。それについて、どう責任取るつもりだ」と切り込んだ。

 

109名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:12:55 ID: ID:X3u

先輩は一瞬本当に絶句していた。
口も半開きで言葉に詰まっている様子だった。ただそこで先輩はヒョコッと俺を見て「今の話は本当かい?」と訪ねてきた。
俺は本当も何も言えないままでいると、先輩は俺の方を見て「ごめん、背負わせて」と頭を下げてきた。祖父は「俺も昔は働いていたからな。だから、甘い話にヒョイヒョイ乗るバカには呆れる。
ただ、今回のバカは、熱心にオタクさんを信用できる、みたいな口ぶりだったんだ。
まあ俺としてはコイツの人生は、コイツの責任だとは思う。
だけど、俺としては大事な孫だ。……だから、な。どうなんだぁ?」怖い顔した祖父がいた。
ただ先輩は背筋を伸ばし、両手を太腿の上に乗せ、背筋を伸ばして先輩「大丈夫です。彼だけは路頭に迷わせないと保証できます」と、まっすぐに目を見て言った。
祖父もジーッとまっすぐに先輩を見つめ、しばらく何も言わなかった。この重い沈黙に耐え切れなくなって俺が「おじいちゃんもさ……」と言った時、

祖父はニヤッと笑って「お前は、下手くそだな」と。
先輩もニヤニヤとして「はーw教育不足ですかねw」と。
俺だけ「?」な状態で、やけに二人してニヤニヤしていた。

ただ祖父は先輩のことを小突いて「若いのにしっかりしていやがる、生意気だ」と。
先輩は「○○さんは歳相応を超え過ぎていて手堅いお方だ」と、二人してニヤニヤしていた。

先輩は「ここでの話は内緒で」と前置きして話をしてくれた。

先輩の計画では、今いる会社では作成できない部品や加工品を、
俺が居る会社へ依頼し(同じ傘下経由で)、そこで俺の居る会社の必要性を見出させるとの事だった。

また引き抜かれていった面々の多くを、この会社に送っているようで、
そこの会社の社長(責任者)も、大分気にかけてくれているらしい。

 

110名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:24:32 ID: ID:X3u

祖父はそこで気が付き「でもそれじゃ、(俺の会社の)社長はどうなるんだ?」と尋ねた。
そこに関しては、先輩は渋い顔をして、何度も「本当に言うなよ」と俺に念を押して、先輩「社長には感謝しています。
実際の話、何人かの社員が上に上がれたのもあの人の手引や、
良いように書かれた調査報告書を上に渡していたおかげでしたので。……ただ、社長には社長の責任をとってもらう予定です」俺はすぐに怖い話だと思った。
祖父は「それじゃあんまりじゃないか?」と尋ねると、先輩「今の時代といいますかね……。
温情だけで物事を運ぶのも一苦労なのです。
もちろん社長には悪いようになってもらいたくないので、
給料はさがると思いますが腹を決めて降格して貰う予定です。
でもその前に代償を……」祖父「それ本音じゃないだろ?」

 

111名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:27:57 ID: ID:X3u

そういうと先輩は更に「今は言うなよ。解決した後は散々言ってやれ」と言ってから

先輩「……いや正直、あの人定年間近なので逃げ切る予定っぽかったので。
まあ慕ってくれる従業員が居る限り逃げることできない人なので。
だからねー、○○君にはねー(ニヤニヤ
まあ社長になるまでに、責任のとり方は学んでいただろうし、責任とってもらいますよ。

つーか、有能な奴に恨まれるのが怖いから、ソイツらには恨まれないように上に告げ口したのが本音だろうし。
そういうのいやなので。祖父さんには関係ないお話ですが」

一生懸命社長を支えようとしていた俺は、やはりバカだった。
祖父は「ほれみたことか。」と満足気だった。

祖父は最後「俺が死んで、お前が出任せ言ってたら祟るからな」と脅していた。

先輩はこの後、廊下にでて「あー、くっそ怖かった。商談かよwいやこんな商談経験したことないわ」と。
先輩は背広を脱いて背中の汗を見せつけてきて「ホラ!これ!」と。

ただ最後、「お前のお爺ちゃんスゲー人だな!お前も立派になるよ!
あと絶対お前のこと助けてやるから!お前の爺ちゃんに祟られそうだしな!」と言われ、先輩は仕事に戻っていった。

スマホに「この時間の貸しはいずれ返してもらう」と連絡が入っていた。

祖父にも「あの人以外についていくな。あの人に言われた人に付いて行くなら許す」と言われた。
あと最後に「お前は甘い。できれば、お前自身でついていける人間を見つけられるようになったらいいけど……
無理だな。お前には無理だろうな。だから上下関係は大切にしなさい」と、小言言われた。

 

112名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:39:23 ID: ID:X3u

ここで挟む話かどうか悩んだけど、挟んでおく。

今は、その言葉を守って先輩とは長い付き合いをしている。
今のところ、奇跡的に(社長の犠牲はあったが)ウチの会社は持ち直しを果たした。

大量リストラブームの時も、うまーくウチの会社も先輩が繋げてくれた会社(なんと二社)も、
本当に無駄だと判断された人以外はリストラされずに済んだ。
給料は十数万だが、賞与がちゃんとしてきたので安心している。

一応祖父のおかげなのだろうか。先輩からは「最後まで信じたのはお前だ」と言っていたが。

とにかく俺は先輩紹介の人とは本当に上手くやって行けている。
そう考えるとやはり祖父のおかげもあったと思う。

ちなみに父親も技術者の端くれといった通り、同じようなカマかけをされたらしい。
父親は昔は現場作業バリバリだったそうだが、本社に移籍してからはもっぱらの窓際だと言っていた。
ただ、祖父はそこで「イジでもしがみついていけ」と言われたそうだ。
父親もそこそこの企業にいる分、簡単には倒産しないし首切りもしないだろうってことだったらしい。

父親は意外にも転職を考えていたとも、その日のうちに家で打ち明けてきた。

でも考えなおして、何年も現場から離れていて窓際やっていたやつが、復帰できるか?となったらしい。

今では本人も自負する「頼もしい窓際」として働いている。
……内心営業に行った時に、超手早く蛍光灯を取り替えて回っている父親の姿を見て、胸が痛かった。
家族を食わせる為に泥水すら飲んでいるのだと考えると、やはり頼もしい窓際に思えた。

 

 

113名無しさん@おーぷん2016/01/15(金)14:46:34 ID: ID:X3u

先輩の一件後、未だに俺が会社に出勤しなくても喜ばれていた頃(週三出勤、現場は毎日だが)。

祖父は誕生日を迎えた。
その日は看護師さんや医者も様子を見に来て「いやー、ここまで回復するとはw」と言っていた。

祖父は笑いながら「俺はしぶといんで。先生もう少しよろしくなー」と言っていた。
先生はすぐに「もう少しではなく、末永くでお願いします」と返すと、祖父は「治療費取る気かw」と、
コレが受けたのか看護師さんは「もーwやっだw冗談がお上手ww」とか笑ってた。

その日の誕生日で、祖父はペロッとクリームを舐めていちごを食べる程度だったが、
何度も「こりゃウマイ、ほれお前ら食べろ」と言っていた。

本当に楽しかったと思う。遅れて父親が合流して毛糸の帽子をプレゼントすると、
祖父は「うんなもん買ったって、俺はすぐに使わなくなるぞww」とブラックジョークをかましていた。

あんなにいつ峠を超えるかと言われていた爺様が、ここまで元気になるとは。
本当に100歳は生きるな、と妙な確信を持っていた。
多分それを口にしたら「三桁か!三桁は俺にはちょっと立派すぎんなww」と言ってた。

祖父はこの日、98歳の誕生日を迎えた。

 

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