自演の時もそうだけど、あいつ脇甘いんだよ
まあこれだけ長くやると整合性保つのも難しいんだろうけど
そうではありません、ただ結果が出るのにもうしばらくかかるのです。
昨日やるべきことはやってきました。
結果は必ずご報告します。
土曜日に間男が心から愛し、どうしても忘れることが出来ない本命の女性とお会いしてき
ました。
俺は前日に自分の立場を説明したうえで、どうしてもお会いしてお話がしたいとTELで説
明しましたが、最初彼女は“もう私には終わったことです、苦い過ちとして忘れようとし
ても決して忘れられない辛い思い出なんです。お願いですから私をそっとしておいて頂け
ませんか?“と言ってどうしても俺と会って話をすることに同意してくれませんでした。
でも最終的には俺の“そうかもしれません、でも貴方にはとっくに終わったことかも知れ
ませんが、それでも貴方以外の人達にとっては貴方が舞台から退場した後も、今現在まで
途絶えることなくずっと続いているリアルな現実と言うか、地獄なんです。私はたまたま
不運にも偶然通りがかってしまったために分不相応に舞台に上げられてしまったただの男
です。私は貴方に愚痴や恨み事を言うつもりも、なにか貴方にして欲しいと要求するつも
りもありません。それでも貴方には貴方が退場した後に何が起こったのかを知る義務があ
るのではないのですか?“という説得に応じる形で彼女と俺との会談が成立しました。
俺の嫁は冷静に傍目から見てもとても美しい女です、特に運命のあの日俺たちの家を出て
行った後には、会うたびに4年の間一緒に暮らしていた俺が見てもはっとするほど美しく
なっていきました。
それでも彼女を一目見た瞬間にやっと分かりました。
間男があれほど執着し、俺の嫁が一瞬で敗れ去ったわけが。
それは外見的な差もさることながら、それよりもむしろ敢えて言うならば人が身に纏って
いるオーラの違いです。
間嫁さんが彼女のことを何故だか悪く言わなかった理由もわかりました。
こんな鈍い俺でも彼女に初めて会い、その瞬間に何故だか幸せな気分になって好感を持ち
ました、なんて言うのか不思議な気分です。
それと同時に俺の嫁が彼女に適うはずがないことも理解できました。
それは例えるなら、人が犬とトラを見た時にどちらが強いか戦いを見るまでもなくわかっ
てしまうのと同じです。
まあ、不細工な喩えですが。
簡単に言えば日陰と日なたの違いでしょうか?誰でも嫁よりも彼女に魅かれるでしょう。
俺は彼女に会った瞬間から自分のサレ夫としての立場なんてすっかり忘れて、まるで物語
の語り部のように彼女が舞台から去った後にいったいなにがあったのか、ひたすら語り続
けました。
間男の悲しみ、間嫁さんの苦悩と後悔、嫁の執着、そして嫁が間男の愛を勝ち取るために
いったい何をしたかを。
彼女は途中から泣きながら俺の話を聞いていました。
そして俺が全てを話終わると、彼女は無理やり微笑んで“きっとあなたも耐え切れないほ
どお辛かったと思います。それでも私にお伝え下さり本当にありがとう。心から感謝しま
す。“といって帰って行きました。
そうです、俺が最後にどうしてもしなければいけなかったこととは、彼女に全ての真実を
伝えることでした。
彼女こそがこの愛憎劇の真のヒロインなんです、俺なんて不運にもたまたま通りがかって
しまったために、何故だか舞台に上げられてしまったただのエキストラに過ぎません。
俺なんかが係るよりもずっと前から始まっていたこの舞台から、俺は退場します。
その変わりにヒロインを舞台に復帰させて。
そうしなければこの劇はどうしたって終幕できません。
ただし、俺は嫁に復讐したいとかいった気持ちだけでやった訳では決してありません。
簡単に言えば俺はもうそろそろその役割を終えますが、再びヒロインをこの舞台に登場
させることこそ俺の最後の役目だったのです。
彼女の最後の言葉を聞いて俺は確信しました。
彼女は長いブランクを経てついに再びこの愛憎劇のステージに再び立つつもりだと。