間男は店を間嫁が襲撃した一件で、近隣の目が気になったらしく
店を人に任せて自分は出て来なくなった。
店は今でもあって、あの界隈であの業種の店はあそこだけだから
たぶん繁盛してるんだと思う。
元嫁と間男は大ゲンカになり、元嫁はあの調子で開き直りと居直りで
引っ込みがつかなくなってヤリ部屋を出て行った。
間嫁に分割とはいえ、支払った慰謝料をどうやって捻出したかは
今もって謎のまま。
親権はこっちが持ったとはいえ、面会権は存在するので
子供に会いたがるとイヤだなあと思ったのだが、
俺はずっと携帯の番号もメアドも変えていないのに
ものの見事にむこうからの接触はなかった。
その代り離婚直後に義母が俺の実家に連絡してきて、
最後に一度だけ孫娘を泊まりに来させて欲しいと言われ、
押し切られてしまった。
義母宅に元嫁はいなかったのだが、義母は娘に
みっちりと俺の悪口を仕込んだらしい。
曰く
「パパはママが一生懸命働いているのをいいことに
仕事もせずに怠けていた」
それを娘が俺に言ったのは、何年か経ってからだった。
ずっと胸にしまっていたらしい。
呼ばれてもいない運動会に現れたり、他にも細かい
嫌がらせもあった。
離婚が片付いて、生活も落ち着いたころ
ようやく俺も就職が決まった。
11月くらいになって、間嫁から電話があった。
「あれからいかがお過ごしでしょうか。」
「はい、おかげさまで元気です」
「お仕事の方は…」
「はい、おかげさまで無事就職できました」
「それは良かったです!!」
とあたりさわりの無い話をしたあと
「実は私の娘で着ない服が結構あるので、俺さんのお嬢さんは
うちの子と歳が近いですし、お父さんもしも女の子の服を選ぶのに
お困りのようでしたら、差し上げたいのですがいかがでしょうか」
正直「渡りに船」の申し出だった。
娘もそろそろ服の好みとか出始めていたが、俺のお袋の選ぶ服は、
どうしてもお袋の好みになっていたから。
それで会うことにした。
待ち合わせのファミレスに現れた間嫁は、どんな格好だったかは
忘れたけど、キャバ嬢というよりはホステスって言う感じで、
派手なんだけど、少し派手さ抑え目って感じだった。
なんとなく、それぞれの元配偶者の話題は避けてたような気がするが、
間嫁は俺の痩せっぷりに驚いていて、ひどく心配していた。
確かに仕事は結構ハードで、あまり食べてないのもあったが、
無職時代に結構太っていた分、ちょうどいい位に思っていた。
あのときの、俺に向けられてたわけではないとは言え、
狼のような殺気と威圧感が嘘のように、このときの間嫁は
穏やかでにこやかだった。恰好は水商売のそれだったけどw
渡された大きな紙袋には、何着かのセーターとカーディガンと
コートが入ってた。
俺は新しい職場で売られているんだけど在庫過多で困ってた
とある消耗品をいっぱい入れてお礼に渡したら、間嫁が「きゃー!」
と喜んだ。
「またこういう時間を作っていただけますか?」と間嫁に言われて、
「正直女性の方とちゃんと話すの久しぶりなのでぜひリハビリさせて下さい」
的なことを俺は言った(らしい)ら間嫁が笑った。間嫁は笑うと目が無くなるw
自宅に帰ってから袋の中の服をよく見ると、これどれも新品だ。
タグとか値札とか切ってあるんだけど服の匂いが店の棚の匂いなのだ。
「これ新品ですよね?」とか言うのは野暮も野暮なのは
さすがの俺もわかったので、娘が大喜びではしゃいでいる様を
多少誇張して間嫁にお礼のメールで送った。
それから年内何回か間嫁は「おさがり」とやらを俺にくれるため
俺を呼び出しては、あきらかに新品の服を俺にくれて、
俺は自分の店で社割で買ったいろんなものを渡す物々交換をしたが、
いつも会ってたファミレスでは、やはり元配偶者の話題は極力避けた。
ちなみに年末には煮物をくれた。
年末年始は俺は元旦以外は仕事だったので、元旦に子供と
初詣に行って、あとは仕事をしていた。
たぶん正月気分が抜けた時期だから10日くらいだと思うのだが、
間嫁が連絡してきた。
いつも会ってるファミレスで間嫁に会ったら、開口一番
「俺さん今日は一日大丈夫ですか?」と訊かれ
「やっと僕は遅い正月休みです」と答えると、
間嫁は突然ビールを頼み、ぐいーっと飲んで、
「あーうっかり車で来てるのにビール飲んじゃったぁ(棒」
「wwwwwなんでまたwwww」
「俺さん今日、うちまで送ってって下さい」
「わかりましたw」
このときに知ったのだが、中ジョッキ一気飲みしたくせに
間嫁メチャクチャ酒弱い。
なんか目に見えてフニャフニャフヒヒヒになったので、
早めに送ろうと店を出た。
確かこの人の実家は、俺の地元から某私鉄で一本のあそこだ。
運転してると、助手席の間嫁が
「俺さーん、今日うちの娘は私の両親と夜まで出かけてるんです」
「はい」
「なので、俺さんに私が拉致られても誰も気づきませーん」
「あ、はい」
「みんな帰ってくるのが8時くらいだから
それまでは俺さんに私が拉致られても誰も気づきませーん」
やっと俺も気づいて、そのままインターのホテルに入った。
夕方近くまでがっつりせくろすしてしまった。
間嫁は優しかった。
ただ、酒の勢いだったのかなという疑念はどうしても拭えず、
帰宅してからメールがなかなか出せずに、さんざん推敲した挙句に
「お疲れ様でした」みたいなあたりさわりのないメールを出した。
速攻メールが来て「もしかして私が酔った勢いでとか思ってるでしょ」
という見透かされた内容の返事だった