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261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 16:59:52.30 ID:4QDc0c6v0
夏が過ぎ、そろそろ年の瀬だというのに仕事は決まっていなかった。
少し高飛車になっていたのかもしれない。
有名どころの大学を卒業して有名企業に入った俺勝ち組wだから転職先もある程度いいところじゃないとwwなんて自惚れていたのかもしれない。
面接にこぎつけたのはわずか一社。しかも落とされる。
その間にもユウとはメールで連絡をちょくちょく(月に一回くらい)とっていた。
どうやら進路は短期大学の英米文学か英語科にするとのことだった。
彼女の英語力なら短期大学の英語科では物足りないのではと思ったが・・。
そんな感じで過ぎていく日々・・そしてあの日が来る。

 

264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:01:05.24 ID:4QDc0c6v0
二月。
久々の面接。
昼からの予定ではあったが朝から目が冴え渡っていた。
ユウの合格発表の日でもあったからだ。
ダブルのドキドキ。心臓に悪いw
十時過ぎ。
メールが来た。
「先生、合格したよ」
きたああああああああああああああああ!!!
俺はすぐに返事をする。
「おめでとう。四月からは晴れて大学生だ」
小学生だったユウがもう大学生・・。感慨深かった。
でも呑気に浸っている場合ではない。
俺もしっかりしないととスーツに着替えた。
今日はいける!と確信していた。
俺も四月から社会人復帰だと。
でもそんな上手く行くわけないw

 

277: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:04:38.06 ID:4QDc0c6v0
面接は散々だった。
空白の時間を問い詰められ、俺の人間性も否定され・・、圧迫面接というか、ただこき下ろされただけ。
久々に凹んでいた。自己嫌悪もプラスされてな。
なんか誰かと一緒にいたかった。
ユウに連絡しようか・・まさかw
俺は例の彼女に電話をした。
しかし繋がらない。おかしい・・今日は休みのはずだ。
何度かけても繋がらない。
仕方なしにメールをした。
『今日会えない?』
するとメールが返ってきた。
『今忙しくて電話出られない。どうしたの?』
どうしたの?と聞かれて俺は隠していた事実を話そうと思った。
もう隠していても意味はない。
こういう時に彼女に頼らなくていつ頼る。
都合のいい考えが俺の頭をよぎる。
『実はな、俺だいぶ前に仕事辞めてるんだ。今は仕事を探している段階。それで今日の面接で散々だったから○○の顔が見たくなって』
今思えば最低なメールだわなw

 

282: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:09:00.02 ID:4QDc0c6v0

時間心配してくれている人ありがとう。
ユウのお母さんが今日は遅いから8時くらいだと思う。
ユウから連絡が来るから。

(続き)
しばらくするとメールが返ってきた。
『だと思った。つか何様だ、お前。もう二度と連絡してくるな』
青ざめた。予期せぬ返事だったから。
俺は電話を掛けた。
出ない。もう一度・・。
「しつけーなぁ」
男の声だった。
「あれ?」
「今○○とデート中なんだよ、殺すぞ」
「ちょっと・・」
すぐに電話は切られた。
数分はボーっとしていたと思う。
ハッとしてもう一度電話を掛ける。
プープーとなる。
話中?違う着信拒否だ。
メールはどうだ?
『あて先を確認してください』
オワタ・・。
何もかもがオワタ・・。

 

288: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:11:50.04 ID:4QDc0c6v0
面接先の最寄り駅のベンチで俺は一人うなだれていた。
彼女を失ったショックというか面接とも相まってプライドがズタボロだったからな。
2,3時間はいたと思う。完全に不審者。
そこに一通のメール。ユウからだった。
『合格通知!』
写メールと共に送られてきた。
何故か涙がこぼれてきた。
尊敬していると言ってくれるユウの方がよっぽど頑張っている、難聴者というハンデをものともせずに頑張って自分の道を歩んでいる。羨ましい。そして妬ましい。
俺は無意識にユウに『電話』をしていた。

 

289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:12:37.99 ID:4QDc0c6v0
初めて掛ける電話。
「せんせ?」
声が聞こえてきた。
「てんわじゃわからないよ」
「おめでとう。本当におめでとう」
俺は聞こえるはずもない言葉を受話口に向けて話す。
「せんせ?どうしたの?」
ユウには無言電話なんだろう。
「せんせ?せんせ?」
その問いかけが俺を苛立たせた。
面と向かってじゃなきゃ話せないのかよ?
ふざけんな。
なんで俺の声が聞こえないんだよ!!!!
「せんせとこにいるの?」
「うるせええええええ!!!!!!!!!」
あまりにも理不尽。
そして俺は電話を切った。
もうこのまま電車に飛び込んで死のうかと思った。
マジで。
でもそんな勇気もない。
トボトボと俺は家に帰ることにした。

 

291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:13:48.57 ID:4QDc0c6v0
途中パチスロを打って帰った。
こんな日に限って当たるなw
連荘を重ねて五万勝ち。
風俗でも行くかと思ったが遅いし帰る。
電車に揺られて駅につく。
家に帰ってネトゲでもやろう。
適当にバイトして適当に過ごそう。
もう彼女もいない・・一生そんな感じでいいやと思っていた。
改札を抜け階段を下りる。
・・・。
・・・あのさ。
なんでかな・・。
なんでそこにいるのかな?w
どんだけ待ったんだよ?w
今何時だよw
「せんせ」
笑顔のユウがそこにいた。

 

306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:18:56.89 ID:4QDc0c6v0
「いつから?」
「たまたま」
嘘が下手。
「おそいから、かえれ」
「せんせ、げんきない?」
「うるさい」
わざと顔を近づけて言った。
「うるさくない、しんぱい」
ガキに心配される筋合いはない。
俺は無視して歩き出そうとした。
しかしユウが腕を掴んでくる。
振り払っても振り払っても掴んでくる。
うざい。
「はなせ!」
「せんせはなにもはなしてくれない!」
「話しても聞こえねーだろ!!」
ここ一番に力強く振り払う。

 

316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:22:02.42 ID:4QDc0c6v0
「いいか。俺はお前が抱いているような人間じゃない。いわば屑だ。
お前の方がよっぽど素晴らしいよ。耳が聞こえなくても健聴者と同じ。
いやそれ以上に輝かしい人生を送っている!
なにか?見下しているのか?馬鹿にしているのか?ああ?ふざけんなよ!」
聞こえないのを言いことに絶対言ってはいけないことを口に出してしまった。
困った顔をするユウ。
分かるわけない。こんな怒鳴ってもユウには届かない。
「ばーか!あーほ!どーじ!まぬけ!!!」
小学生みたいな煽り文句を浴びせた
俺は柱に頭を当てた。
もう最悪だ。サイアク・・。
その日は俺の涙腺も緩んでいたんだなー。
三度の自己嫌悪に泣けてきた。

 

324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:25:35.37 ID:4QDc0c6v0
「せんせ、ひとい」
驚いた?まさか聞こえていたのか?
同時に俺の背中に彼女の手が触れた。
背中で突きはねるがどかない。
「かおでわかるのよ」
ユウは言葉を続けた。
「せんせはいいにおい。むかしからこのにおいがすき」
匂い?タバコ臭いだけだ。
「せんせ、すき。たいすき」
ユウの体もぴったりとくっ付いてきた。

 

332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:27:22.28 ID:4QDc0c6v0
俺は咄嗟に振り返った。
驚いた表情を一瞬見せたがすぐに顔をしたに向けるユウ。
「ごめんなさい」
なんて謝る。
俺は携帯を取り出して打ち込んだ。
『好きってどういう意味だ?』
言い方が古いがラブかライクのどっちなんだと。
ユウも携帯を取り出して打ち込む。
『先生に彼女がいるのは分かってる。でも気持ちは伝えていいでしょ?』
『気持ちって?』
『先生の事がずっと好きなんだよって』
俺はユウを見た。
ユウは視線をどこに置いていいのか分からない様子。
「ごめんなさい」
俺の顔が強張っていたのかまた謝ってきた。
それが物凄く可愛かったのな。
もう無理だった。
俺もユウのことを無意識に好きになっていたのかもしれない。
それは今となっては分からないけれど。
俺はユウを抱きしめた。
ユウは体を一瞬震わせたがユウの手もゆっくりと俺の背中に回った。
「馬鹿だな、ユウちゃんは。こんな屑を好きになって」
聞こえないのをいいことに。
「せんせ」
ユウが力強く俺を抱きしめてきた。
「たいすき」
俺も強く抱きしめた。

 

346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:29:50.21 ID:4QDc0c6v0
ユウも大学生になり四月、五月と月日が流れていく。
でも例年のようにgdgdとはしなかった。
俺は身の丈にあった仕事を探しとにかく定職につこうと思った。
部屋も綺麗した。
身なりも正した。
タバコもギャンブルもやめた。
それは一重にユウがいたからだな。
彼女は大学に入ると同時に翻訳家についても学びだした。
いつも一生懸命で前向きな彼女を見ていると俺もしっかりしないとと自然と思うようになった。
ちょっと脱線するが実のとこと今のところ翻訳家にはなれていない。
需要のなさと、やはり障害者ってことで難しいようで。
でも俺は応援している。
得意だった絵を生かして絵本作家になれば?とも勧めている。
とにかく今でもユウは前向き、ポジティブだ。

 

352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:31:49.61 ID:4QDc0c6v0
んで7月。
年に数回の実家からの電話。
俺はその時ユウのことを言った。
「今度帰るとき彼女連れて行っていいかな?」
「あらーwもちろんよwどんな子かしらw」
「普通の子だよ」
「会社の人?」
ドキっとしたが冷静を保ち。
「いいや」
「写メくらい送りなさいよw」
母親は歳と反して携帯を使いこなす、よく写メを送ってくるんだw
「後でな、それと一つ知っていてほしいことがある」
「なに?w」
「彼女は耳が聞こえない?」
「え?」
一気にテンションの下がる母親。

 

360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:34:31.01 ID:4QDc0c6v0
「そういうこと」
「病気かなにか?」
「まぁ」
「障害者ってこと?」
「そんな言葉を使うな」
「連れてこないで」
「は?」
「お母さんは認めない。寄りによって障害者なんかと・・」
「おい、言葉が過ぎるぞ」
「とにかく家には連れてこないで」
自分の耳を疑った。
実の母親がそんなこと言うなんてと。
もちろんユウには話さなかった。
「今度俺の実家にいかないか?」と誘ったら喜んでいたからな。

 

376: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:39:21.44 ID:4QDc0c6v0
そして八月の末・・俺はレンタカーを借りて実家の会津若松に帰ることにした。もちろんユウを連れて。
運気ってのはあるのかもな。
仕事の方も、面接は上手くいき後は連絡待ちっていう具合にもなってた。
その流れに身を任せその日までに何度となく母親を説得した。
しかしメールは返ってこない。
ユウとの2ショットも送ったが返事はない。
このまま家に帰っても追い返されるだけかもと思ったが構わない。
その時は直接ガツンと言ってやろうと思った。
ユウとの約束が優先だしなと。
それに初ドライブでユウも満足げだったからそれで全てがおkだった。
しかし実家に近づくに連れて緊張。
最後のパーキングエリアで実家に電話。
休みだったので父親が出た。

 

381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:40:39.40 ID:4QDc0c6v0
「母さんは?」
「いるよ」
「もうすぐでそっちに着くから」
「え?そんなこと聞いてないぞ」
「末には帰るって言っただろ」
「そうか、(受話器を話して)おーい、男が帰ってくるってよー」
何かを話している。
「一人か?」
「いいや、彼女とだ」
「彼女と来るそうだー」
うるせーよ、親父w
「じゃあ気をつけてこいよ」
そう言うと切られた。
そして実家に到着。
チャイムを鳴らす。
出てきたのは地元で働く弟だった。

 

390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:43:10.92 ID:4QDc0c6v0
「おう」
「なんだよ彼女連れかよw」
そういう弟にユウはお辞儀をした。
「うるせー。早くいれろ」
「うーっす」
そして玄関に行くと親父が出てきた。
「おお、家に若い女の子がくるとは!!」
親父はしゃぎすぎだw
ユウはまたお辞儀をする。
奥で母親が覗いているのが分かった。
「母さん!!母さん!!」
親父が母親を呼ぶ。
渋々出てくる母親。
「ただいま」
母親は無表情のまま何も言わない。
「彼女のユウちゃんです」
玄関先に揃った家族に紹介をした。

 

399: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:45:54.52 ID:4QDc0c6v0
「はじめまして。ユウといいます」
ずっと車の中で練習していた台詞。「ちゃんといえてる?」って何度も尋ねてきた。発声なんて気にする必要ないのになw
「初めまして。男の父です」
なんかキリっとなりやがった親父w自重しるw
そして「お茶用意するからおいでおいでー」と父親と弟はリビング入っていく。
しかし母親は立ったまま。

 

409: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:49:10.67 ID:4QDc0c6v0
さんくす。
チャリで10分のところにあるから平気。
書き込みながらも準備はしてるんだぜw

 

416: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 17:51:23.99 ID:4QDc0c6v0
「なんだよ」
俺と母親の間の空気を読んだのかユウが困った顔をする。
すると母親は手を前に持っていった。
手話だった。
『初めまして。私の名前は○○です。よろしくお願いします』
これを手話でやった。
このやろー。
俺は笑顔を堪え切れなかった。
あの時ほど母親に対して愛のこもった怒りを感じたことはなかった。
ユウの顔にも満面の笑みが零れた。
普段俺の前では滅多に使わない手話を母親に見せた。
『初めまして。ユウと言います。お邪魔します』
って。
靴を脱ぎあがる。
「練習したのか?」
母親に尋ねる。
「知っていただけ」
ツンデレをやるには歳が行き過ぎているだろw
でもこんな母親が大好きだ。
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