「久しぶり!」と笑顔を俺にくれる真奈美。
今までモヤモヤしていた気持ちが一瞬にして吹っ飛んでしまった。
それは紛れも無く俺が大好きだった真奈美の笑顔だった。
今日来てよかった。と素直に思った。
俺も思わず顔が緩み、笑顔で「久しぶり」と返した。
俺は真奈美を見た時に気づいたことがあった。
真奈美は俺と付き合っていた時より痩せていた。
俺と付き合っていた時はもうちょっと肉つきがある感じだったから、さらに美人になった感じがした。
けどどこか不健康というか、心に引っかかった感じがした。
あまりに前よりスリムになったからかもしれないけど。
とりあえずオールできるところを探し、朝5時までやってるカラオケに行くことにした。
クリスマスのあの日と同じだった。
お互い交互に淡々と曲を入れていった。
俺はGLAYのBELOVEDとかサザンとかを入れた。
真奈美はクリスタルケイとかを入れてた。
そしてあの時と同じようにお互いが曲を入れない間合いが出来た。
そこで真奈美が口を開いた。
俺は「近況報告のタイミングかな?」と思っていた。
やはり近況報告だった。
ホント久しぶりだよねーから始まり、「お酒飲んできたんだねー」とか
「大学どう?」とか聞かれた。他愛も無い話。
俺の近況報告が終わった後、ちょっと仕掛けてみた。
「真奈美はどうなのよ?今日いきなり呼び出しかかってびっくりしたよ!
なんかあったの?」と。
真奈美の顔が一瞬変わった気がした。
少し「うーん」と言い、数十秒たった後に話はじめた。
笑顔で「あたし1と付き合っていた時より痩せたでしょ?」と言った。
俺は「そうだね、なんかあの時よりもさらにスタイル良くなっちゃったね!前から悪くはないけど!」と言った。
真奈美は「そっか~。」と言ってカラオケのモニターを眺めていた。
俺は「まぁ前の真奈美も今の真奈美もどっちもイイと思うよ!
強いて言えば前は『可愛く』て、今は『美人』かな?」と言った。
真奈美は困ったような笑顔で「ありがとう」と言った。
そして真奈美が握っていたマイクをテーブルに置いて再び話し始めた。
まぁそんなこともあるかな、と思って相槌をうちながら聞いていた。
「1と付き合っていた時はあんまり出さなかったんだけど、実は去年くらいからうつ病の症状がずーっとあったんだ。
頭が痛くなったり、やる気が起きなくなったり。。
でさ、あたしショップで働く前に○○(企業名)で働いていたの知ってるよね?
そこの職場やめちゃったのもうつ症状が原因だったんだ」と。
確かに思い出してみればところどころにそのような雰囲気はあった。
けど当時俺の友達にもうつ病の友達はいたし、それと比べれば真奈美は全然元気だった。
「ショップはシフト制だったし時間の融通が効いたからよかったんだけど
春先にちょっと症状が重くなって。お店に迷惑もかけられないからやめちゃったんだ。」
と言っていた。
ちょうど俺が撃沈した頃だ。そんな風になっていたなんて知らなかった俺は必死で謝った。
「ああそんなことあったっけwいいよそんな謝らなくても」と言っていた。
それどころではないくらい辛かったそうだ。
真奈美はその頃から病院に通いだした。
しかし医者の答えはいつも「軽いうつ症状」だった。
食欲も落ち、俺と付き合っていた頃より7~8キロも体重が落ちたそうだ。
7月に入り、うつ症状はまた「頭痛」に変わっていったらしい。
季節の変わり目だからかと思っていたらしいが、医者や真奈美の親からセカンドオピニオンを勧められ、行ってきたそうだ。
その結果を今日聞いてきたとの事。
結果「脳出血の疑い」だった。
疑いというレベルの軽度であったので、これから時間をかけて詳しく検査していくそうだ。
ただ場合によっては(病気の進行具合)によっては手術とかもありえるとの事。
正直、頭が真っ白になったそうだ。
ずっとうつ病だと思っていたのが脳の病気だったとは。
それに手術となれば髪の毛を全部剃らなきゃいけない。
不安で仕方なく、1に連絡してしまった。とカミングアウトされた。
真奈美はいつになく厳しい目をしていた。
俺もいきなりのカミングアウトに驚いてしまった。
多分、俺が真奈美に頼られたはじめての瞬間だった。
俺は言葉が見つからず、「大丈夫だよ。」とだけ言った。
真奈美はまた笑顔になり
「だといいね!
今はフリーターで少し時間があるから、またどっかに連れてってね!」と言った。
真奈美の笑顔はちょっと切なかった。
真奈美はまたマイクを握り、柴崎コウの『かたちあるもの』を歌っていた。
凄く上手かった。
そのままカラオケで5時まで二人で眠ってしまった。
翌朝。
夏の夜明けは早い。
カラオケを出るともう外は明るかった。
まだ始発まではちょっと時間があり、電車待ちの学生や若いお兄ちゃんお姉ちゃんが沢山いた。
俺と真奈美は眠い目をこすりながら、何となく駅とは反対方向へ散歩しに行った。
いつもの繁華街は中心部をちょっと離れるとまだ静かで、時々走る車のエンジン音がやたらとうるさく感じた。
その街はお互いが好きな街だった。
真奈美は「あそこにある専門学校を受けようとした」とか「この辺に家借りようかな?高いかな?w」とか
散歩しながら話した。
俺も「ここの美容室に通ってた」とか「よく部活の試合でこの道歩いたんだ」と話した。
始発から少しした時間。6時くらいだったか。
俺と真奈美は駅で別れた。
真奈美は「今日はありがとう。また遊ぼうね」と言った。
俺は「おう!いつでも声かけてくれ!」と言って別れた。